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119.九月三十日夜(藤田家の場合) (時尾・夢主・斎藤)
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そして台所へ顔を出すと時尾に、
「冷やでいい、一本つけてくれ。」
と言った。
「・・はいっ、今お持ちしますね。」
時尾はまだ残っていたかしらと思いつつ徳利を探した。
時尾は丁度一合残っていた日本酒を夕餉と共に出した。
「何か・・・いい事でもございましたの?武尊さんもお呼びいたしましょうか?」
「いや、武尊は寝ている。まだ体の方は本調子ではない、そのまま寝かせておけ。」
と、斎藤は杯をあおった。
時尾は黙って夫を見つめた。
斎藤も時尾を見たまま少し黙って、それから静かに口を開いた。
「今日内示をもらった・・・十月十日付で北海道へ赴任だ。」
そう言って斎藤は空の杯を見つめた。
それと同時に時尾はお酌をする。
「そうですか・・・急な話ですが五郎さんのお力を必要とされているのであれば行かないわけにはいきませんね・・・。」
と、時尾は俯きながら答えた。
「嗚呼・・。」
「時尾、勉の件だがお前はそのまま会津の実家へ帰れ。とりあえず開拓使の札幌本庁へは顔を出すがその後の詳細はまだわからん。まだ幼い勉と母親とで暮らすには安くない所かもしれんからな。」
「分かりました、五郎さんがそうおっしゃるのであれば実家の方で御連絡をお待ちいたします。」
「すまんな、東京暮らしもそう長くもないうちに転勤で。」
「・・・仕方ありませんわ・・まだ時代は安定したわけではありませんから。五郎さんは五郎さんの思うが道をお行き下さい。私達の事は大丈夫ですから。」
時尾は時尾らしい返答をした。
それは時尾の常日頃からの夫に対する姿勢であり真実であった。
そして再び空になった杯に酌をしながら、ここのところはっきりしていなかった時尾にとって大事な問題・・・を切り出した。
「で、武尊さんは連れていかれるんですよね。私の代わりに五郎さんの傍についていてくれるのでしたら私も幾分安心ですわ。」
「武尊にはまだこのことは話していない。」
「え?今日は職場で御一緒ではなかったのですか?」
「一緒だったが・・・。」
「何故でございますか?」
「何故かな、まだ言うべきではないと思ったからか。時尾もこのことは黙っていてくれ。近いうちに俺から話す。」
「若しかしてお妾さんの話もしてません・・か?」
「・・・武尊は時尾の事をとても気にしている。おそらく首を縦には振るまい。」
「私が『良い』と言っているのです・・、いえ、・・・私は是非武尊さんを娶って欲しいのです。・・・五郎さん・・・あなたは本当に武尊さんと御一緒の時は今まで一度も見たことがないような楽しそうなお顔をなされます。妻だから・・・五郎さんを慕う女だからわかります。武尊さんは五郎さんにとって必要なんです!」
「時尾・・・。」
「お願いいたします、何とぞこの時尾の願いと思ってお聞き下さいまし。」
「時尾・・・世の中にはどれほどこうあって欲しいと願っていても思い通りにならないことは山ほどある。仮に俺がそう願っても武尊には武尊の意志があり目的があるはずだ。・・・・武尊は一緒には来てはくれまい・・・。」
「そんなこと・・っ!私がいるからでございますか?」
「違う、時尾!」
時尾は夫のはっきりとした激しい否定に驚き、夫の顔を見つめて夫の言葉を待った。
「時尾・・、お前は俺にとってなくてはならない大事な妻だ、二度とそのような事を言うな。武尊がどうするかはもちろん武尊に聞くがしばらく返事は待て。」
時尾はまだ自分が必要とされている事を嬉しく思い、薄らと浮かんだ涙を人差し指でそっと拭いながら穏やかに、
「分かりました。差し出がましい事を申しましてすみませんでした。残り十日ですね、明日から五郎さんの物も合わせて転居の準備を始めます。」
と言った。
「嗚呼、すまんな。いろいろ大変だが頼む。」
「いえ、それくらい何でもございませんわ。ああ・・・でも、こんな事ならせめて半分にしておけばよかったわ。」
「ん、何が半分だ?」
「ええ・・、お米がきれていましたでしょ、ですから今日一俵買ってきましたの。」
「むぅ・・・。」
「これから毎日お昼はおにぎりをお持ちになります?」
「いや・・・(蕎麦を食いたい・・・蕎麦・・・)。」
と、斎藤は額に汗を浮かばせた。
時尾は夫の考えていることが分かり、クスリと笑うと、
「まあ、それについてはまた後日考えますわ。お昼はいつも通り蕎麦を召上りに行ってくださいね。」
と、言った。
「冷やでいい、一本つけてくれ。」
と言った。
「・・はいっ、今お持ちしますね。」
時尾はまだ残っていたかしらと思いつつ徳利を探した。
時尾は丁度一合残っていた日本酒を夕餉と共に出した。
「何か・・・いい事でもございましたの?武尊さんもお呼びいたしましょうか?」
「いや、武尊は寝ている。まだ体の方は本調子ではない、そのまま寝かせておけ。」
と、斎藤は杯をあおった。
時尾は黙って夫を見つめた。
斎藤も時尾を見たまま少し黙って、それから静かに口を開いた。
「今日内示をもらった・・・十月十日付で北海道へ赴任だ。」
そう言って斎藤は空の杯を見つめた。
それと同時に時尾はお酌をする。
「そうですか・・・急な話ですが五郎さんのお力を必要とされているのであれば行かないわけにはいきませんね・・・。」
と、時尾は俯きながら答えた。
「嗚呼・・。」
「時尾、勉の件だがお前はそのまま会津の実家へ帰れ。とりあえず開拓使の札幌本庁へは顔を出すがその後の詳細はまだわからん。まだ幼い勉と母親とで暮らすには安くない所かもしれんからな。」
「分かりました、五郎さんがそうおっしゃるのであれば実家の方で御連絡をお待ちいたします。」
「すまんな、東京暮らしもそう長くもないうちに転勤で。」
「・・・仕方ありませんわ・・まだ時代は安定したわけではありませんから。五郎さんは五郎さんの思うが道をお行き下さい。私達の事は大丈夫ですから。」
時尾は時尾らしい返答をした。
それは時尾の常日頃からの夫に対する姿勢であり真実であった。
そして再び空になった杯に酌をしながら、ここのところはっきりしていなかった時尾にとって大事な問題・・・を切り出した。
「で、武尊さんは連れていかれるんですよね。私の代わりに五郎さんの傍についていてくれるのでしたら私も幾分安心ですわ。」
「武尊にはまだこのことは話していない。」
「え?今日は職場で御一緒ではなかったのですか?」
「一緒だったが・・・。」
「何故でございますか?」
「何故かな、まだ言うべきではないと思ったからか。時尾もこのことは黙っていてくれ。近いうちに俺から話す。」
「若しかしてお妾さんの話もしてません・・か?」
「・・・武尊は時尾の事をとても気にしている。おそらく首を縦には振るまい。」
「私が『良い』と言っているのです・・、いえ、・・・私は是非武尊さんを娶って欲しいのです。・・・五郎さん・・・あなたは本当に武尊さんと御一緒の時は今まで一度も見たことがないような楽しそうなお顔をなされます。妻だから・・・五郎さんを慕う女だからわかります。武尊さんは五郎さんにとって必要なんです!」
「時尾・・・。」
「お願いいたします、何とぞこの時尾の願いと思ってお聞き下さいまし。」
「時尾・・・世の中にはどれほどこうあって欲しいと願っていても思い通りにならないことは山ほどある。仮に俺がそう願っても武尊には武尊の意志があり目的があるはずだ。・・・・武尊は一緒には来てはくれまい・・・。」
「そんなこと・・っ!私がいるからでございますか?」
「違う、時尾!」
時尾は夫のはっきりとした激しい否定に驚き、夫の顔を見つめて夫の言葉を待った。
「時尾・・、お前は俺にとってなくてはならない大事な妻だ、二度とそのような事を言うな。武尊がどうするかはもちろん武尊に聞くがしばらく返事は待て。」
時尾はまだ自分が必要とされている事を嬉しく思い、薄らと浮かんだ涙を人差し指でそっと拭いながら穏やかに、
「分かりました。差し出がましい事を申しましてすみませんでした。残り十日ですね、明日から五郎さんの物も合わせて転居の準備を始めます。」
と言った。
「嗚呼、すまんな。いろいろ大変だが頼む。」
「いえ、それくらい何でもございませんわ。ああ・・・でも、こんな事ならせめて半分にしておけばよかったわ。」
「ん、何が半分だ?」
「ええ・・、お米がきれていましたでしょ、ですから今日一俵買ってきましたの。」
「むぅ・・・。」
「これから毎日お昼はおにぎりをお持ちになります?」
「いや・・・(蕎麦を食いたい・・・蕎麦・・・)。」
と、斎藤は額に汗を浮かばせた。
時尾は夫の考えていることが分かり、クスリと笑うと、
「まあ、それについてはまた後日考えますわ。お昼はいつも通り蕎麦を召上りに行ってくださいね。」
と、言った。