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118.沈みゆく夕日 (夢主・斎藤)
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(人骨だと?確かに武尊は“骨”だと言っていたが人骨とはな・・・。)
斎藤は薬屋を出て、巡察を続けながらさきほどの薬屋の主人が付け加えた言葉を思い出していた。
『平安中期の文献【和名抄】にもございますが人骨は骨の病や瘡に効くと言い伝えられております。』
斎藤にとっては武尊の薬が何でできていようが関係なかった。
ましてあれが病などを治す目的で作られたことではないことは疑いもない。
本物は仕上げに人の血を混ぜるということで特異的な作用をもたらす。
普通の人間を劇的に変えてしまう。
そのための薬であることは間違いない。
(いや・・・あれ(十六夜丸)は人がどうこうする範囲を超えている・・・そう、何か憑き物に憑かれると言った方がしっくりくる。)
恐ろしく腕が立ち笑いながら人を斬る、またその能力と反するような治癒能力を持つ魔物に憑かれる、そんな薬なのだ。
「呪術か・・・。明治の世にそんな迷信じみた話は眉唾物だと思っていたがこれは夢ではない事は確かだ。」
さすれば誰がそのような事が出来ると言うのか。
斎藤はもう一度今まで得た話を丁寧に思い出していた。
幕末武尊を利用していたのは武尊の兄と名乗る男だ。
しかも武尊に名刀大包平を何処からともなく持って来て使わせていた。
あの刀は個人で如何こう出来るものではないほどの代物だ。
そしてその兄は会津戦争の際は幕府軍、官軍、どちらにも属さず川路の・・たった一人の人間の抹殺を企んでいた。
果てしない力を手に入れた割には狙いが小さすぎる。
「・・・・。」
斎藤は違和感を覚えた。
つまり、これだけの力を知り利用した者がたった一人の個人のはずがない。
もともと斎藤が十六夜丸を知ったのは倒幕派勢力としての長州側の一味という事としてだった。
という事は黒幕は長州藩の者・・・か?
では十六夜丸の事を知る人間は他に確実にいる。
武尊を見つければ再びその力を利用しようとするかもしれない。
都合が悪い事に武尊は幕末のころより姿形が変わっていない。
【左頬に十字傷】と言えば抜刀斎をさすように、【右頬に三本傷】と言えば武尊を見たものならすぐに分かってしまう。
斎藤は十六夜丸と出会った幕末の京都を回想した。
最初は俺達新撰組と出会えば面と向かって刃を向けてきたが後には真っ向から向かって来ることはなかった・・・。
十六夜丸が出没したと言われていたのは薩摩藩邸、若しくは薩摩藩士のたまり場で狙われた者は殆どが息絶えていた。
その時息があっても仲間が来るころには息絶えたと言う。
『鬼が・・・右頬に三本傷・・・に殺られた。』と言い残して。
薩摩藩は三本傷の鬼にたたられた。
そんな言葉が当時風のように広まった。
そんな中でも、斎藤が知っている限り一度は十六夜丸が逃げて行ったことがある。
それは斎藤は武尊と抜刀斎が殺りあっていた最中に割り込んだ時の事だ。
あれから戊辰、西南戦争があり、どれだけ十六夜丸の顔を知った奴が生き残っている?
いや、十六夜丸を知っている奴らが生き残っていることが問題ではない、十六夜丸とンあの秘密を知っている奴らが生き残っていて武尊と出くわすのが問題なのだ。
東京は明治になり、江戸の時以上に政界内に陰謀が渦巻く所となってしまった。
伊藤も山縣も未だ【人斬り抜刀斎】としての力を欲しているが【不殺ず】となってしまった抜刀斎を説得するのは無理無駄な事だ。
十六夜丸のあの力があれば抜刀斎と同じぐらい、いやそれ以上の戦力となる。
欲しくなるはずだ。
あれ(十六夜丸)は薬を飲ませた者のいう事は聞くようになっているのだ。
(あれは・・・意のままに動く最強の人形だからな。)
斎藤は診療所で蒼紫に、
『幕末十六夜丸を利用していた奴らが今も生き残っていて、十六夜丸の存在を知れば武尊が巻き込まれる可能性がある。』
と、深く考えずに言ってしまったがその言葉通り長州藩閥の古参が集まるこの東京ではその可能性がかなり高くなるのだ。
さらにまずいのは先回川路の娘の警護役で高官集まる夜会に行き目立ってしまったことである。
何故もっと早くこの事に気付かなかったのか。
気が付いていたなら武尊を決して夜会になど行かせはしなかったのに、と斎藤は悔いた。
そして斎藤らしくないが斎藤はちょっぴり天に向かって願い事をした。
願わくば武尊に害を加える連中が皆死んで十六夜丸の秘密を知る者がないように。
そして十六夜丸に変化してしまう薬がもう二度と作られることがないように、と。
そうすれば実際自分の手にあるたった二包を処分すればいいだけなのだ。
だが、どう推測しようが分からない所もある。
「いっそ、本人(十六夜丸)をもう一度呼び出して真のところを聞いてみるか?」
と、斎藤は真面目に考えたが、診療所で十六夜丸になってしまったことを知った武尊の悲しそうな顔が思い出されてその考えを却下した。
「やっかいな問題だな・・・。」
と斎藤が呟いてふと足を止めたのは広い十字路の手前。
西の空には真っ赤な夕焼け。
大きな夕日が沈みかけていた。
斎藤は眩しさに目を細め手を太陽にかざし空を仰いだ。
「・・・どうなるにせよ、俺が東京にいられるのもあと少し・・何を武尊にしてやれる・・・。」
斎藤は柄を握り締め日が落ちるのを眺めていた。
そして辺りは夜のとばりに包まれた。
斎藤は薬屋を出て、巡察を続けながらさきほどの薬屋の主人が付け加えた言葉を思い出していた。
『平安中期の文献【和名抄】にもございますが人骨は骨の病や瘡に効くと言い伝えられております。』
斎藤にとっては武尊の薬が何でできていようが関係なかった。
ましてあれが病などを治す目的で作られたことではないことは疑いもない。
本物は仕上げに人の血を混ぜるということで特異的な作用をもたらす。
普通の人間を劇的に変えてしまう。
そのための薬であることは間違いない。
(いや・・・あれ(十六夜丸)は人がどうこうする範囲を超えている・・・そう、何か憑き物に憑かれると言った方がしっくりくる。)
恐ろしく腕が立ち笑いながら人を斬る、またその能力と反するような治癒能力を持つ魔物に憑かれる、そんな薬なのだ。
「呪術か・・・。明治の世にそんな迷信じみた話は眉唾物だと思っていたがこれは夢ではない事は確かだ。」
さすれば誰がそのような事が出来ると言うのか。
斎藤はもう一度今まで得た話を丁寧に思い出していた。
幕末武尊を利用していたのは武尊の兄と名乗る男だ。
しかも武尊に名刀大包平を何処からともなく持って来て使わせていた。
あの刀は個人で如何こう出来るものではないほどの代物だ。
そしてその兄は会津戦争の際は幕府軍、官軍、どちらにも属さず川路の・・たった一人の人間の抹殺を企んでいた。
果てしない力を手に入れた割には狙いが小さすぎる。
「・・・・。」
斎藤は違和感を覚えた。
つまり、これだけの力を知り利用した者がたった一人の個人のはずがない。
もともと斎藤が十六夜丸を知ったのは倒幕派勢力としての長州側の一味という事としてだった。
という事は黒幕は長州藩の者・・・か?
では十六夜丸の事を知る人間は他に確実にいる。
武尊を見つければ再びその力を利用しようとするかもしれない。
都合が悪い事に武尊は幕末のころより姿形が変わっていない。
【左頬に十字傷】と言えば抜刀斎をさすように、【右頬に三本傷】と言えば武尊を見たものならすぐに分かってしまう。
斎藤は十六夜丸と出会った幕末の京都を回想した。
最初は俺達新撰組と出会えば面と向かって刃を向けてきたが後には真っ向から向かって来ることはなかった・・・。
十六夜丸が出没したと言われていたのは薩摩藩邸、若しくは薩摩藩士のたまり場で狙われた者は殆どが息絶えていた。
その時息があっても仲間が来るころには息絶えたと言う。
『鬼が・・・右頬に三本傷・・・に殺られた。』と言い残して。
薩摩藩は三本傷の鬼にたたられた。
そんな言葉が当時風のように広まった。
そんな中でも、斎藤が知っている限り一度は十六夜丸が逃げて行ったことがある。
それは斎藤は武尊と抜刀斎が殺りあっていた最中に割り込んだ時の事だ。
あれから戊辰、西南戦争があり、どれだけ十六夜丸の顔を知った奴が生き残っている?
いや、十六夜丸を知っている奴らが生き残っていることが問題ではない、十六夜丸とンあの秘密を知っている奴らが生き残っていて武尊と出くわすのが問題なのだ。
東京は明治になり、江戸の時以上に政界内に陰謀が渦巻く所となってしまった。
伊藤も山縣も未だ【人斬り抜刀斎】としての力を欲しているが【不殺ず】となってしまった抜刀斎を説得するのは無理無駄な事だ。
十六夜丸のあの力があれば抜刀斎と同じぐらい、いやそれ以上の戦力となる。
欲しくなるはずだ。
あれ(十六夜丸)は薬を飲ませた者のいう事は聞くようになっているのだ。
(あれは・・・意のままに動く最強の人形だからな。)
斎藤は診療所で蒼紫に、
『幕末十六夜丸を利用していた奴らが今も生き残っていて、十六夜丸の存在を知れば武尊が巻き込まれる可能性がある。』
と、深く考えずに言ってしまったがその言葉通り長州藩閥の古参が集まるこの東京ではその可能性がかなり高くなるのだ。
さらにまずいのは先回川路の娘の警護役で高官集まる夜会に行き目立ってしまったことである。
何故もっと早くこの事に気付かなかったのか。
気が付いていたなら武尊を決して夜会になど行かせはしなかったのに、と斎藤は悔いた。
そして斎藤らしくないが斎藤はちょっぴり天に向かって願い事をした。
願わくば武尊に害を加える連中が皆死んで十六夜丸の秘密を知る者がないように。
そして十六夜丸に変化してしまう薬がもう二度と作られることがないように、と。
そうすれば実際自分の手にあるたった二包を処分すればいいだけなのだ。
だが、どう推測しようが分からない所もある。
「いっそ、本人(十六夜丸)をもう一度呼び出して真のところを聞いてみるか?」
と、斎藤は真面目に考えたが、診療所で十六夜丸になってしまったことを知った武尊の悲しそうな顔が思い出されてその考えを却下した。
「やっかいな問題だな・・・。」
と斎藤が呟いてふと足を止めたのは広い十字路の手前。
西の空には真っ赤な夕焼け。
大きな夕日が沈みかけていた。
斎藤は眩しさに目を細め手を太陽にかざし空を仰いだ。
「・・・どうなるにせよ、俺が東京にいられるのもあと少し・・何を武尊にしてやれる・・・。」
斎藤は柄を握り締め日が落ちるのを眺めていた。
そして辺りは夜のとばりに包まれた。