この体で藤田家へ着く前に、万が一、またさっきの奴らに出会うとやっかいだ。



と、思った武尊は蒼紫の申し出を受けて送ってもらうことにした。



そして蒼紫が付いて来てくれるという事に安心したからだろうか、



（今日の四乃森さんはあの黒い服じゃないんだ・・・。）



と、蒼紫を見る。




蒼紫がいつもの黒い服ではなく、品のいい色の着流し。



そして蒼紫にそのことを聞いてみると、



「ああ・・、あれはかなり汚れてしまったので洗濯をした。」



との答え。



（ああ、そうだった。四乃森さんも昨日斎藤さんと一緒に船に乗って帰ってきたんだった。）



と思った武尊は、



「島はどうでした？斎藤さんは怪我して帰って来ましたけど、四乃森さんはお怪我は？」



と、蒼紫を心配して聞いた。



「俺は問題ない。」



「あ～、よかった。」



と、短い返事ながらも本当に安堵した表情を見せる武尊を蒼紫は嬉しく感じた。



武尊が話すのをやめると沈黙の時間となる。



今日はなんとなく沈黙を避けたい気分の武尊は再び蒼紫に話しかける。



「そう言えば、どうして四乃森さんはあんな所にいたんですか？」



「俺の知り合いが先ほどの近くで左官をしている。道場や塀の修理を手伝ってもらおうと訪ねていたところだ。」



その知り合いというのはもちろん元御庭番衆で左官へと転職したものだった。



蒼紫のその答えに、



「道場の修理？四乃森さんが？」



どうもイメージにそぐわなくて武尊がちょっと裏返った声で聞きかえす。



「ああ、神谷道場の破損が思ったよりひどくてな、手直しするには資材も人手も足りぬ。」


と、蒼紫が答えた。




緋村と神谷薫は京都へ。



門下生の弥彦は怪我で使い物にならない。



相楽という男は手伝って欲しいと思うときにはいつもいなくなる。



高荷は診療所が忙しく、使えるのは操だけ。



と言っても操とではどれだけの事ができるのか。



かえって俺一人の方がはかどるかもしれん・・。





と、思っていると武尊が、



「四乃森さんって優しいですね。皆の為にいろいろ手を尽くされて｡」


と、にこっと笑って言った。



「いや、特に皆の為という理由では・・・。緋村には借りがある・・・。それに武尊を迎えるに当たっても早く修理に取り掛からねばと思っただけだ。」



蒼紫は表情にはださなかったが、武尊に褒められて内心照れながら答えた。