「痛てて・・。」



と腰を押さえつつ、武尊は濡れた垣根に触れないように注意を払って立ち上がると蒼紫の方を向いた。



（なんだかよくわからないけど、助けてもらったんだよね・・・たぶん。）



と、思った武尊は、状況がいまいちわからないけどとりあえず、



「あ、あの・・・、何だかよくわかりませんが、ありがとうございまし・・た。」



と武尊蒼紫にお礼を言った。



「別に礼を言われるほどの事ではない。」



と、特に顔色を変えるわけでもなく、蒼紫は普通に答えた。



しかし、武尊は先ほど蒼紫の行動に心理的ショックを受け、ちょっと気まずくて蒼紫の顔を見ることが出来ない。



実際の所、何と言っていいのか言葉に詰まっていた。



（それにしてもあの男達、私をどうしたかったのだろう？とりあえず姿を隠すのが正解か？）



と、武尊はこの場をぐるりと視線を回すように見回すと、隠れられるような所はそこしかなかった。



しかも、今蒼紫が立っていた位置より相手が先へ進んで振り返えられると隠れていた武尊が見えてしまう。




「あ・・。」




武尊もその辺の事は素人ではない。



先ほどの男二人の行動を頭の中でシュミレーションした。



蒼紫が歩いていたならば、蒼紫よりも先へ進んで振り返り、蒼紫の通り道をふさぐように話しかける可能性が高い。



すると武尊が見えてしまう。



それをさせない為に立ち止まっている必要がある。



立ち止まっていると、しかも横向きで、相手は呼べば蒼紫と目を合わせられる後方からでも声をかけることができる。



その為の横向きの停止。



しかも、不自然ではないように。



つまり、武尊を隠すためには絶対蒼紫の位置よりも手前で立ち止まらせる必要があったのだ。



それゆえの蒼紫の行動・・・・。



と、武尊は、あの驚きの行動がすべて瞬時に蒼紫が計算した結果の事だと理解した。



「す、すみません、四乃森さん、私の為にあんな・・・・。」



と、顔を少し赤くして俯きながら話す武尊を見て蒼紫は逆に驚いた。



その表情、態度から自分が何故そのような行動をしたのかを武尊が理解したと解ったからだ。



「いや、あのような者達のごたごたには巻き込まれぬが一番だ。特に今日は走れぬだろう、そんな体では。・・・・どうしたんだ、足が悪いのか。」



と、言った。



ゆっくりだけど、普通に歩いているように見えていると思っていた武尊は一瞬で見抜かれてギクっとした。



けれどまさかその根源が斎藤との情事の結果だとは言えない。



いくら蒼紫が自分の言を【友】と言ってくれているとはいえ、自分の事を好きだと言った男。



そして私が斎藤さんを好きだという事を知っているとはいえ、その人の前で『昨夜抱かれてました。』なんて事は言えるはずがない。



自分が蒼紫の立場なら、やはり好きな人が他人に抱かれたというのを聞くのはいい感じがしないから、と思ったから。



「さっき、ちょっと余所見して階段を踏み外したから・・・。」



「それだけか。」



「え、ええ。」



「・・・・・・・。」



武尊の返事に無言で武尊を見る蒼紫。



少しの間、武尊を見ると、



「どこかへ行く途中だったのか。」



と、武尊に言った。



話が違う方向に向いて武尊はホッとし、



「いえ、今日はもう帰るところです。」



「・・・・そうか、送って行こう。」



と蒼紫は武尊に言った。