比古は武尊が水場に向かった後、武尊の後ろ姿を見ながら難しい顔で今の話をもう一度考えていた。




「比古さん、お待たせです。」



武尊は肩をすくめて笑った。



「おう。」



比古は武尊の様子が何か変だと思った。



比古の前まで来ると武尊は



「比古さん、私・・・・何に見えます？」



「あ？武尊は武尊だろう。」



意味あり気な言い回しだと思ったが武尊の本意が分からず比古は首を傾げた。




「虫とか・・・女じゃないとか・・・に、、見えません・・？」



「は？意味がわかんねぇ｡」




そうは言うが比古の目が何かを勘ぐる。



「私がいた未来は・・・・今より科学技術が発達してて、、、みんな明治以降も世界中の人が切磋琢磨したお陰なんだけど｡」


「月にも行けるんですよ、人類は！そして宇宙にステーション作って研究とかしてるんです。宇宙旅行は高いから普通の人は無理だけど飛行機で世界中行けるんです。アメリカまで十六時間ぐらいだったかな。鉄道だったら新幹線で東京－京都は三時間弱。海水から真水も作れるんです！」


武尊は更に言葉を続けた｡


「結核・・今で言うと労咳ですか、とか梅毒も治せる薬もあります。電子顕微鏡とかもあって目で見えないものも見えたりできるんですよ・・・つまり、ものすごく医学は発展しました！」



武尊はくるっとステップを踏んで一回転すると比古の方を向いて、



「ねぇ、比古さん、人間ってどうやってできるか知ってます？」



と聞いた。


比古は武尊の真意が分からない。


まさか、その歳にもなって赤子の作り方を知らない訳でもあるまいし。



「男と女が契ったらできるだろう。」


「そうですよね・・・・・。これは人間だけじゃなくどの動物も同じ・・・・・・。」



武尊の声は少し震えていた。



「でも・・・私は違うんです・・・・・。」



冷静を保とうと頑張って目を開いて見ているその目からぽろりと涙をこぼれる。



「つ・・・つくられた・・んです・・・・。」



普通に喋ろうと思ったのに声が詰まる。



「作られたんです！自然の道理に反して人間のエゴで作られた実験体なんです！」




武尊は一気に振り絞る様に叫んだ。




視界の比古が滲んでくる。



「うっ・・・うっ・・」



喉から嗚咽が堪えきれずに漏れる。



比古は武尊を抱きしめた。




「うわあああん。」




自分でもびっくりするぐらいの声だった。


けれども止まらない止めることが出来ない。


武尊は比古の胸にすがって泣き続けた。




「武尊・・それを知って辛かったんだな。」




武尊は止まる事のない涙を流しながら比古の胸に顔を埋めて頷いた。



「泣いていいぞ。思いっきりな｡」



片方の手で比古は武尊の髪を撫でてやる。



「ひ・・・比古さ・・ん・・・私・・・・嫌じゃないですか？汚らわしくないですか？」




「そんなことがあるか。武尊は武尊だ。他の何者でもないだろう。」


諭すように比古が武尊に話す。






「比古さん・・・・・・。」









武尊は比古の胸にすがって声をあげながら泣き続けていた。




比古は武尊が泣きやむまで只、優しく武尊を抱きしめていた。