※1 記憶を失っている時の名前は変換できません。
282.長い夜、長い物話(1)(比古・夢主)
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一息ついた武尊は話の続きを始めた。
「十六夜丸は呼ばれなくなっている間、彼は消えているわけじゃなく彼自身は何もない漆黒の闇の中にただ一人閉じ込められていたの。
神であった時は空から降り注ぐ清らかな月の光が十六夜丸の生きる糧だったけど、式神にされてからは使役後に依り代に使った人間の気が彼の糧だった。
長い間彼はお腹をすかし飢えていた、でもどうにもならなかった。・・最初の呪術者が持ち帰って寺院に置いた斑鳩の石がどういう経緯かわからないけど京都の寺院に移され十六夜丸の気はそこにつながってたみたいで十六夜丸はそこから外の、人間の世界を時々見ながら意識を眠らせていた。
そんなある時、彼にとって奇跡のようなことが起こったの。
十六夜丸の意識とつながっている石を祭った祠の前に他人を犠牲にしてまで己の欲望を叶えようとする女と、初代呪術者が記した呪術書を読み、その術を自分の野望を叶えるために使いたいと思っていた男がたまたま同時に現れた。
十六夜丸は女の願いを叶える契約をした後、男にその女の骨をあの薬として使用するように指示をした・・その女の願いこそが・・。」
武尊の目の前にまるでその時の女・・蘭子の表情が目の当たりに思い出される。
話が止まった武尊に比古が優しく武尊を包む。
「あ、ごめん・・つい思い出しちゃって。」
「ん?誰かから聞いたんじゃないのか、その話。」
「ううん、見てきたの。いや、十六夜丸に見させられたの。彼の記憶を。」
比古はまたもや驚いて目を見開いた。
武尊の話は想定外の上を行っていたからだ。
「女の人の名は蘭子。蘭子はその時結核を・・肺を患っていて死ぬ間際だった。信じられる人が兄しかいなくてずっと兄の傍にいたくて・・兄を忘れたくなかったし兄から自分の記憶が無くなることをとても恐れていた。
契約の際に自分の命を差し出すって言ったんだけど、もうじき死ぬ人間の命なんかいらないって言われて困った蘭子は”自分と同じ顔を持つ女の命をあげる”って言ってしまった。
十六夜丸からすれば”あげる”って言われて”もらう”ということではなくて、そういう人の命まで自分の欲の為に贄にしてよいと思う穢れた魂を持つ人間の骨が欲しかった。そして蘭子が死んだあとその骨は十六夜丸を呼び出す薬になった。」
「それがお前の兄が持ってきた薬というわけか。」
「そう。・・それから時は流れて未来になって、蘭子さんと同じ顔を持つ私が作り出された。私は研究材料だったから自由に外には行けなかったんだけど、普通の人と同じような体験をさせた経験がどのように身体に影響を及ぼすのかという実験の為に日本の心と言われる京都へ旅行に行ったの。
もちろん私は自分自身がそんな実験をされているとは気づきもしなかった。で、たぶんそこで十六夜丸に見つかったんだと思う。蘭子さんの契約履行のために過去へ連れていかれた。それがたぶん比古さんが私を最初に見た時だと思う。」
武尊はここで首をのけぞらせて背中の比古の顔をのぞいた。
すると今度は比古が口を開いた。
「あの日俺は酒を買って帰る途中でな、すると突然空が暗くなり、その黒雲の中に稲光が走り空が白と黒で交互に変わる変な天気になったんだ。こんな天気など今まで見たこともない、妙なこともあるもんだと思っていたら武尊が突然目の前に現れて地面に落ちた。何だと思って見ていると着ていた服がみるみるうちに薄くなり裸の武尊が転がっていたというわけだ。」
「裸・・。着ていた服は時間を超えられないみたいだね・・。ついでに服もそのままにしてくれてればいいのに。」
2回とも裸だったんだ。と、武尊は思い出して恥ずかしくなった。
「行き倒れなんて今でもざらにある。幕末のころだったら余計にだ。変な現れ方だったが行き倒れをいちいち気にしてちゃこっちの身も持たないしな。」
「そ、そうだよね。」
比古の言う通り、身元不明の行き倒れなんて余程のことがないのだろう。特に人間嫌いと自称するぐらいだ。
(なんで比古さんは私を助けたのだろう。以前、『倒れていたから連れて帰って寝かせていた』と聞いたけど・・。)
「別に下心があったわけじゃないぞ。」
武尊の考えを読んでいるかのように比古が答えた。
「一瞬だが目が開いて俺を見たんだよ。すぐに閉じて意識を失ってしまったがな。だがその瞳を見てしまったらそのまま置いていけなかった、ただそれだけだ。」
「ううん、助けてくれてありがとう比古さん。」
「まぁな。あの日武尊をどうしようかと悩んだ時、大粒のひどい雨が降ってきてな、ずぶぬれになりながら小屋へ着いてな。」
「え”。」
「濡れて冷たくなった武尊をこうして布団で温めたのも今日と同じだ。奇遇だな。」
「え”!!初めての日からそんな迷惑をっ!」
更に恥ずかしい状態だったんだと武尊は耳を熱くしてあたふたした。
「まぁ、それが俺と武尊の縁の始まりだったんだな、と今思い返せば納得だな。」
比古はにやりとして武尊の頭を顎でぐりぐりした。
「いたたた!」
武尊が足をばたつかせると比古は武尊をいじめるのをやめて再び話だした。
「だが翌日もお前は目を覚まさず、お前の兄と名乗る男らが迎えに来てそのまま引き取っていった。」
「だから私は最初に比古さんに会った時のことを覚えてなかったんだね。あの時私はどこかのお屋敷の部屋の布団の中で目覚めたの。でも自分自身の事を全く覚えていなくてどうしようかと思っていたところに蘭子さんのお兄さんが現れて記憶がない私のことを自分の妹だと言って色んな情報を刷り込んだ。
でも私は時々頭の中に未来の物が思い出されて何が本当か、これは夢の中なんじゃないかとか、ずっと自分の存在が不安だった。
そんなある時私は夜に兄と出かけてそこで初めて薬を飲まされた。翌日気が付けばお屋敷の布団の中でいつ帰って来たとか全く記憶がなくて、兄がそれは私が悪い病気にかかっているせいだと言った。だからそれから病気の治療薬だといって何度も薬を飲んでいた・・。
少し経つと日々の暮らしに慣れてきて、顔を隠してなら外出していいと言われて時々街中を見学を兼ねて甘味を・・食べ歩くようになったんだけど、ある時お気に入りの甘味屋であんみつを食べていたら新選組の幹部に目を付けられて上手く言いくるめられて屯所に連れていかれて・・」
黙って聞いていた比古も屯所に連れていかれたと聞いた時、思わずまた
「は?」
と声が出てしまった。
やっぱりそれってヤバい事なんだなぁ、と武尊は比古の反応で当時の自分の能天気さに冷や汗をかく。
「いや、新選組なんてその時まで見たことなかったし!外では天蓋かぶってたけどお店の中で食べる時は脱いでるでしょ?そこに新選組でも甘味が好きな人がたまたまお店入って来て、私の頬の傷を見て怪しんだというわけです。」
「まぁな、顔の傷は特徴としてつかみやすいからな。で、どうなったんだ。」
「十六夜丸と対峙した人が十六夜丸の事を屯所で話していて、で、私がそうじゃないかっていうことで連れて帰って来たんだけど、その人は巡察中で帰って来るまで奥の和室で軟禁されたの。」
「逃げようと思わなかったのか。」
「だって、、私じゃないもん。ってその時は思っていたし・・それに、何故新選組が自分と似ているっていう人のことを探しているのか、それを確かめる事が何か自分につながりがあるようなぼんやりとした予感がしたの。」
はぁ、と比古は大きくため息をついた。
その時の武尊が目に見えるようだった。
きっと武尊は記憶を無くしながらも今のように真っすぐな目で物事に当たっていったのだろうと。
だが新選組の強引さは酒を買いに山を下りてきた時に比古もその噂を聞いている。
「で、どうなった。」
「うん、その時暑かったし疲れも出ててやることなかったからそこで居眠りしてたら十六夜丸と戦ったという人が帰って来て起こされて、顔は瓜二つだが目が違う、気も違うって言われて帰っていいってことになった。」
比古は居眠りしていたという武尊に苦笑しそうになりつつ、新選組から解放されたという結果に安堵し、なるほどな、と武尊の説明に納得した。
十六夜丸のあの『目』。あの『剣気』。
実際にやりあった者だけが知る十六夜丸の強さ、そして口の悪さ。
「解放されたて屯所の門に立った時、外はだいぶ日も暮れてて・・甘味を食べに出かける時はいつも日中だから山を見ながらお屋敷まで戻っていたんだけど、早く帰らないと真っ暗になったら帰れない、って思った時、さっきの帰って来た人が人違いをして悪かったから家まで送ってくれるって言ってくれたんだけど、その時・・」
今思い出しても劇的に恥ずかしいことをやらかしたことを比古の前で言うことに情けない気持ちを溢れさせながら。
「その時、お腹がすごい音でなったの・・。」
「ぶっ、ははは!」
その時の様子が想像できて思わず比古は噴出した。あの新選組を相手にだ。
「もう、私だってすごく恥ずかしかったんだから!」
「悪かった、想像に安かったんでな。それで無事解放されたんだな。」