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289.長い夜、長い物話(7)(比古・夢主)
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「疲れたか?」
消沈したようにため息を漏らす武尊を比古が気遣った。
「うん、少し・・でも大丈夫。・・ねえ、比古さん。操ちゃん知ってるって言ったよね。」
「嗚呼。」
「操ちゃんが蒼紫の事好きだって知ってる?」
「まぁな。志々雄との闘いの時、俺は馬鹿弟子の頼みで葵屋に加勢に行ってたからな。剣心たちが戻って来るまで小娘たちの話がいろいろ耳に聞こえたぜ。」
「そうだったんだ。
・・操ちゃんは蒼紫が大好きなの。だけど東京にいた時、蒼紫が私を好きだってことが分かって・・だから操ちゃんがいる葵屋は居づらかった。
私は操ちゃんに蒼紫とのことを応援してると言ったこともあったし、もし、蒼紫が私を好きだという事が操ちゃんにバレたらと思うと怖かった。
何度も蒼紫に『私はダメだ』って言ったよ・・。
でも、そのたびに、人を想う気持ちって誰にも止められないという言葉が私自身にも返ってくるようで蒼紫を強く拒絶できなかった・・。
それに蒼紫に九条のことを調べてもらおうという下心があったから尚更だった。
そんな時に”吸血鬼事件”が起こった。」
葵屋に助太刀に行った時の操を思い出し、武尊の言わんとすることがわからんでもないと比古は思った。
(何より、刀を返さなかったということは間違いなく鞘の家紋の意味を四乃森は勘付いていたということ。
そうまでして武尊を自分の傍に置きたかった、ということか。)
考えを巡らせながら武尊の話を聞いていたが、聞いたことがない言葉に思わず聞き返した。
「”吸血鬼”?なんだそれは。」
「吸血鬼といって血を吸う鬼と書くの。西洋の物の怪?みたいなものなの。人間のような姿で処女の生き血を好んで啜り、口には血を吸うための二本の牙があるの。」
と、武尊は両手の人差し指を口元に当て、牙の形を比古に見せた。
「操ちゃんが鴨川に流れ着いた死体の首に二つのあざがあるのを見たんだって。夕餉の時にみんなに話していたの。」
「本当にその”吸血鬼”とやらにやられたのか?」
比古が興味ありげに聞いてきたので、武尊は慌てて訂正した。
「まさか!吸血鬼なんているわけないじゃん!って・・万が一、いたとしてもそれは吸血鬼じゃないって葵屋で説明したよ。だって、操ちゃんの話によると、その死体、おっさんだったんだって。吸血鬼は美女か処女の血が好きなの。おっさんの血は飲まない!」
やたら詳しく熱弁する武尊を見ながら、さすが未来から来ただけあって知識は伊達じゃないと驚きながらも小さくニヤリとする比古。
「なんつーか、西洋の妖怪は選り好みの激しいんだな。で、本当は何だったんだ?」
比古は武尊がその答えを知っていると思い、問いを投げかけた。
武尊は話す順序を組み立てるように、少し考え、
「うん・・結論から言うと、鴨川のずっと上流・・志々雄がアジトにしていた場所に武田観柳という悪い奴がいてね、そいつが部下にアヘンを作らせてたんだけど、その実験に西洋医学で使われる注射器という器具でアヘンを直接人体に刺した痕だった。恐らく、二回打ってオーバードーズだったんだろうね。あ・・オーバードーズっていうのは薬が限界量を超えた状態をいうの。」
「要するに、アヘンのやりすぎか。」
「うん、恐らく急性中毒死。実験に使ったのは観柳を裏切った元仲間?チンピラみたいなおっさん達が閉じ込められてたから。で、死んだら川に捨てたんだって。」
比古は武尊が何故そこまでのことを知っているのか驚いた。
が、すぐに武尊もその事件に絡んでいたのだとピンときた。
そして聞き返した。
「わざわざ人の目につくようにしたのは何か理由があるんだろ。御禁制のアヘンを作っている奴等にとってわざわざ足がつくことをするはずがないと思うんだがな。」
武尊はため息をつくように、
「・・武田観柳にとって、あれはただ単に見せしめだったみたい。普通に流れ着いた死体のはずだったのに・・操ちゃんが巻き込まれた。
私は蒼紫と九条の事を調べてたんだけど、そんな時に警官が殺されて犯人が操ちゃんだって警察に言われて、葵屋総出で操ちゃんを探しに出た。
もちろん誰もが操ちゃんがやったなんて思ってないよ。
私は操ちゃんが死体が流れてきた川上に何か探しに行ったんじゃないかと思って、鴨川の上流へ行ってみた。
丁度、蒼紫に志々雄の元アジトに連れて行ってもらった後だったからそこが怪しいと思って。
裏口みたいなところから中に潜入すると、奥から操ちゃんの叫び声がして駆け付けたら、観柳ともう一人、注射器を持った人がいて、操ちゃんがまさにアヘンを注射される寸前だった。
なんとか助けようと思って咄嗟に一芝居打ったら、観柳は引っかかってくれて、私が代わりに注射されたのは良かったんだけど・・。」
「アヘンをか!?」
比古は思わず目を見開いて武尊に聞いた。
「うん、操ちゃんを無事に逃がすことしか頭になかったから。
私はアヘンを打たれて少し気を失っててその間に手を後手に縛られてた。
部屋には操ちゃんの他には誰もいなくなってたから逃げるチャンス・・ええと、逃げる絶好の機会だったんだけど、操ちゃんは手足を縛られてたし、どうしようかと悩んでたら、操ちゃんが襟元にクナイを隠し持っているって言うから私が襟元に嚙みついてクナイを取り出して縄を切る事に成功したんだけど・・」
武尊は小さくため息をついた。
その話の間合いで比古が眉間にしわを寄せて、
「アヘンを打たれて大丈夫だったのか?」
と聞いた。
武尊は小さく首を横に振り、自嘲するように言った。
「ぜんぜん・・五感が瞬時におかしくなって、眩暈はするし、ふらふらだったし・・もしすぐに2本目打たれたら死んでたと思うよ。
で、操ちゃんに私が来た道を教えて先に逃げるように言ったんだけど、『先に逃げて、やることがあるから。』って、クナイ握りしめてすっ飛んでった。・・ははっ。」
いや、あの時は本当、まいったと思い出しながら武尊は小さく笑った時に比古と目が合った。
「心配しないで。今は大丈夫だから。」
武尊は笑みを返したのだが、この続きはいよいよ自分が”あの薬”を飲んだ話をすることになるんだと心の中でため息をついた。
消沈したようにため息を漏らす武尊を比古が気遣った。
「うん、少し・・でも大丈夫。・・ねえ、比古さん。操ちゃん知ってるって言ったよね。」
「嗚呼。」
「操ちゃんが蒼紫の事好きだって知ってる?」
「まぁな。志々雄との闘いの時、俺は馬鹿弟子の頼みで葵屋に加勢に行ってたからな。剣心たちが戻って来るまで小娘たちの話がいろいろ耳に聞こえたぜ。」
「そうだったんだ。
・・操ちゃんは蒼紫が大好きなの。だけど東京にいた時、蒼紫が私を好きだってことが分かって・・だから操ちゃんがいる葵屋は居づらかった。
私は操ちゃんに蒼紫とのことを応援してると言ったこともあったし、もし、蒼紫が私を好きだという事が操ちゃんにバレたらと思うと怖かった。
何度も蒼紫に『私はダメだ』って言ったよ・・。
でも、そのたびに、人を想う気持ちって誰にも止められないという言葉が私自身にも返ってくるようで蒼紫を強く拒絶できなかった・・。
それに蒼紫に九条のことを調べてもらおうという下心があったから尚更だった。
そんな時に”吸血鬼事件”が起こった。」
葵屋に助太刀に行った時の操を思い出し、武尊の言わんとすることがわからんでもないと比古は思った。
(何より、刀を返さなかったということは間違いなく鞘の家紋の意味を四乃森は勘付いていたということ。
そうまでして武尊を自分の傍に置きたかった、ということか。)
考えを巡らせながら武尊の話を聞いていたが、聞いたことがない言葉に思わず聞き返した。
「”吸血鬼”?なんだそれは。」
「吸血鬼といって血を吸う鬼と書くの。西洋の物の怪?みたいなものなの。人間のような姿で処女の生き血を好んで啜り、口には血を吸うための二本の牙があるの。」
と、武尊は両手の人差し指を口元に当て、牙の形を比古に見せた。
「操ちゃんが鴨川に流れ着いた死体の首に二つのあざがあるのを見たんだって。夕餉の時にみんなに話していたの。」
「本当にその”吸血鬼”とやらにやられたのか?」
比古が興味ありげに聞いてきたので、武尊は慌てて訂正した。
「まさか!吸血鬼なんているわけないじゃん!って・・万が一、いたとしてもそれは吸血鬼じゃないって葵屋で説明したよ。だって、操ちゃんの話によると、その死体、おっさんだったんだって。吸血鬼は美女か処女の血が好きなの。おっさんの血は飲まない!」
やたら詳しく熱弁する武尊を見ながら、さすが未来から来ただけあって知識は伊達じゃないと驚きながらも小さくニヤリとする比古。
「なんつーか、西洋の妖怪は選り好みの激しいんだな。で、本当は何だったんだ?」
比古は武尊がその答えを知っていると思い、問いを投げかけた。
武尊は話す順序を組み立てるように、少し考え、
「うん・・結論から言うと、鴨川のずっと上流・・志々雄がアジトにしていた場所に武田観柳という悪い奴がいてね、そいつが部下にアヘンを作らせてたんだけど、その実験に西洋医学で使われる注射器という器具でアヘンを直接人体に刺した痕だった。恐らく、二回打ってオーバードーズだったんだろうね。あ・・オーバードーズっていうのは薬が限界量を超えた状態をいうの。」
「要するに、アヘンのやりすぎか。」
「うん、恐らく急性中毒死。実験に使ったのは観柳を裏切った元仲間?チンピラみたいなおっさん達が閉じ込められてたから。で、死んだら川に捨てたんだって。」
比古は武尊が何故そこまでのことを知っているのか驚いた。
が、すぐに武尊もその事件に絡んでいたのだとピンときた。
そして聞き返した。
「わざわざ人の目につくようにしたのは何か理由があるんだろ。御禁制のアヘンを作っている奴等にとってわざわざ足がつくことをするはずがないと思うんだがな。」
武尊はため息をつくように、
「・・武田観柳にとって、あれはただ単に見せしめだったみたい。普通に流れ着いた死体のはずだったのに・・操ちゃんが巻き込まれた。
私は蒼紫と九条の事を調べてたんだけど、そんな時に警官が殺されて犯人が操ちゃんだって警察に言われて、葵屋総出で操ちゃんを探しに出た。
もちろん誰もが操ちゃんがやったなんて思ってないよ。
私は操ちゃんが死体が流れてきた川上に何か探しに行ったんじゃないかと思って、鴨川の上流へ行ってみた。
丁度、蒼紫に志々雄の元アジトに連れて行ってもらった後だったからそこが怪しいと思って。
裏口みたいなところから中に潜入すると、奥から操ちゃんの叫び声がして駆け付けたら、観柳ともう一人、注射器を持った人がいて、操ちゃんがまさにアヘンを注射される寸前だった。
なんとか助けようと思って咄嗟に一芝居打ったら、観柳は引っかかってくれて、私が代わりに注射されたのは良かったんだけど・・。」
「アヘンをか!?」
比古は思わず目を見開いて武尊に聞いた。
「うん、操ちゃんを無事に逃がすことしか頭になかったから。
私はアヘンを打たれて少し気を失っててその間に手を後手に縛られてた。
部屋には操ちゃんの他には誰もいなくなってたから逃げるチャンス・・ええと、逃げる絶好の機会だったんだけど、操ちゃんは手足を縛られてたし、どうしようかと悩んでたら、操ちゃんが襟元にクナイを隠し持っているって言うから私が襟元に嚙みついてクナイを取り出して縄を切る事に成功したんだけど・・」
武尊は小さくため息をついた。
その話の間合いで比古が眉間にしわを寄せて、
「アヘンを打たれて大丈夫だったのか?」
と聞いた。
武尊は小さく首を横に振り、自嘲するように言った。
「ぜんぜん・・五感が瞬時におかしくなって、眩暈はするし、ふらふらだったし・・もしすぐに2本目打たれたら死んでたと思うよ。
で、操ちゃんに私が来た道を教えて先に逃げるように言ったんだけど、『先に逃げて、やることがあるから。』って、クナイ握りしめてすっ飛んでった。・・ははっ。」
いや、あの時は本当、まいったと思い出しながら武尊は小さく笑った時に比古と目が合った。
「心配しないで。今は大丈夫だから。」
武尊は笑みを返したのだが、この続きはいよいよ自分が”あの薬”を飲んだ話をすることになるんだと心の中でため息をついた。