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288.長い夜、長い物話(6)(比古・夢主)
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「帰り道、あのカフェおじさんにまた出会いました。
実は、斎藤さんが横浜から東京に戻っている時、私はその間に彼に渡すものを街中で探してました。
でもこれといってピンとくるものがなくて・・。
何となく足が向いた外国人居留地でオルガンの音を聞き、誘われるように教会へ入りました。
・・オルガンというのは教会にある大きな楽器です。教会は分かります?」
武尊は比古が頷くのを確認して話を続けた。
「入口が開いていたから中を伺っていました。オルガンの曲が知っていた曲だったのですっかり聞き入っていましたら、外国のおばさんに声をかけられて、そしたら他の女の人達も集まってきて、でも言葉が分からなくて困っていたら、オルガンを弾いていたおじさんが日本語で話かけてくれました。
それはいつかのカフェおじさんでした。
彼のお陰で回りのおばさん達も警戒心を解いてくれました。私は彼のオルガンを傍で聞いていました。
そこでちょっと、歌っちゃったんです・・。知っている曲だったので・・。
そしたらなんか周りから褒められて、来週のミサで歌ってくれないかってカフェおじさんに言われて困っていた時に、入口の所にいたおばさんが何やら白いものを広げていて、それが
来週、教会でミサの後にチャリティーバザーが行われることになっていて、・・ええと、ミサっていうのはキリストに捧げる祈りや聖歌で、チャリティーバザーというのは衣類や小物を持ち寄って売った売上金を教会に寄付するというものです。
バザーは来週だったので船の出航に間に合わない。と、無理を言ってマフラーを譲って頂きました。
だからカフェおじさんは私が大切な人と別れた事を知っていて、陸蒸気で東京に戻った後、またコーヒーを飲ませてくれました。
少し心が安らぎましたが、やっぱり、空っぽの藤田家に戻るととてつもなく寂しくて・・
それではいけないと、何度も自分にこれからやるべきことを口に出し自分を奮い立たせました。
夜、大きな月を見て思案に暮れていると、何故か昔の事とかも思い出しました。
兄と呼んでいた男の顔、その兄が会津へ向かう前に言った言葉。
兄は自分に何かあったら『京都の天ヶ岳の奥に陶芸家の男が一人住んでいる。そこを訪ねろ。』って言ったの。
一度しか会ったことがないけど、その男なら私を守れるって・・。
・・それって、比古さんのことだよね?
そして兄はこれから戦局が激しくなるからと私に路銀を渡しました。恐らく死を覚悟していたのだと思います。
それから『『安西』という男に気をつけろ、奴はお前の秘密を知っている。』と言っていたのを思い出しました。
『安西』というのは私が”蘭子”として過ごしたお屋敷にいたお坊さんです。
薬の秘密を知っているのは兄を除いて
でも、京都のお坊さんにそうそう出会うわけないと思い、お坊さんに気を付けていれば何とかなると思いました。
それからもう一つ。
二回目に私が比古さんの所へ時間を超えて来た時、比古さんが、『兄が金子と薬を持って来た。』って言いましたよね。
ということは、兄は会津から生きてこの京都、比古さんの所に来たという事にその時気が付きました。
はぁ、馬鹿ですよね・・。そのことに気が付くのが遅すぎました。
事あるごとに兄の消息を追うのに会津に行くんだと意を固めていたのに、その意味がなくなりました。」