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285.長い夜、長い物話(3)(比古・夢主)
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「それから私は斎藤さんが用意してくれた警官の制服を持って斎藤さんと一緒に彼の家に帰りました。家に帰ると時尾さんが出迎えてくれて、彼女を見た瞬間彼女がどれほど素晴らしい人か分かりました。私が男だったら嫁に欲しいぐらいに。
熱めお風呂を頂いた後、汗が止まらなかったのでそのまま寝間着を羽織って部屋にいたらお布団を持ってきてくれた時尾さんに私が女だと分かって驚いてて・・私もそんな大事なことを言ってなかったのかと驚いて・・。でも時尾さん嫌じゃないって言ってくれました。
そんな複雑な気持ちで藤田家の最初の夜を過ごしました。
とはいえ、翌朝から期限付きとはいえ警察官。
上司と共に出勤し、せめて足は引っ張らないように、何か役に立てるようにと精一杯務めるように気を張りました。
また、自分の身ぐらいは自分で守れるよう斎藤さんから素手での体術を教わりました。
初日の午後、斎藤さんが会議でいなくなると、斎藤さんの密偵の部下の張が戻ってきました。
雪代縁が仲間と潜伏していたと思われる横浜の洋館を調べて帰って来たところでした。斎藤さんが戻って来て彼に報告していた中で、神谷薫の偽物を墓から掘った死体で作っていたという話に自分の生まれを思い出し、その場で気を失いました。
意識を取り戻しても自分が誰かの死体から作られたのは変わらない事実。
感情を持ったり動いたりしても所詮は屍。
その事実に自分が生きているか分からなくなりそうでした。
私は斎藤さんの、人の血が通う温かい手を握らせてもらって・・やっと自分を取り戻しました。
落ち着くと、こんな私でも何かの役に立ちたいという気持ちがもっと強くなって、その日適当に一人で帰れと言われていましたが、街中を出歩くことにしました・・ほら、犬も歩けば棒に当たるっていう言葉もあるしと思って。もしかしたら何か情報が得られるかもしれないって思ったんです。
それから色々あって何とか大量の密輸武器が置いてある場所を見つけることができました。」
武尊はここで話を止めた。
そして残っている盃一口、唇を湿らせるように口をつける。
少し考えてはまた一口小さくお酒を飲みこんだ。
比古は黙って武尊を見ている。
「丁度その頃政府高官が集まる夜会が計画されていました。」
と、武尊が再び話を始めた。
「夜会というのは文明開化になってお偉いさんが西洋の文化に習って夫婦同伴で参加する社交パーティ・・ええと、お酒を飲んだり踊ったりすることです。警視総監も参加になっていましたが奥さんがすでに他界されてるということで成人した娘さんが一緒に行くことになっていました。
色々あって私がその娘さんを夜会の場で護衛することになりました。私はその護衛に短銃を貸してもらう事を条件に引き受けました。他にも本職の警官が大勢いるから傍にいるだけでいいって言われましたけど、それは私自身が納得しないことだったので万が一の事を想定して自分でも最低限の武器を持っておきたかった。
・・私、未来で体術を習ってるって言いましたよね。その中には短銃の訓練も入ってました。もちろん未来の銃は今より改良されて軽くて性能がいいものになっています。銃なら腕力で劣っても扱えますから・・。
夜会の日、午後八時にアームストロング砲が近くに打ち込まれ、その騒動に乗じて川路が命を狙われました。
相手はサーベルを抜いた海軍軍人三人。
娘さんの近くにいた私は当然川路の近くにいて、一人目。川路の背後に近づいてサーベルを振り上げた海軍軍人。
私はそのサーベルを持つ手を撃ち抜いた。
ほぼ同時に反対側から切りかかって来た軍人は避けて短銃の渥握で頭殴って気絶させた。
でも三人目は踊り場階段で女性を人質に取って、私に銃を捨てろと言った。
私が短銃を床に捨てると、さっき手を撃った軍人が片手サーベルで川路を殺しにかかってきたから、私は隠していたもう一丁の短銃で踊り場と目の前の軍人の頭を撃った。
・・その時は相手が撃ったら死ぬとかどうのとかは考えていなかった。ただ、この場を、川路や人質を守るために何が最善か、それだけしか考えてなかった。
私は十六夜丸が人殺しだと、散々嫌悪を抱き、中身が違うとはいえ、”私”の身体を使って人を殺したことを非難していたけど、結局私自身も同じ人殺しだと・・。
その後、夜会は解散となって現場検証後、事後の処置は明日となって、外の会場警備に当たっていた斎藤さんと一緒に帰った。帰る途中で私が泣いていたら『つらいのなら心を寄越せ』って言った。
幕末から決して揺るがない彼の『悪・即・斬』。
私は彼の強さに憧れて、生き方に憧れて・・
そんな彼に自分の弱さを預けて楽になんかなりたくない、逃げだしたくない、そう思ったら取り乱した心は落ち着いたんだけど・・その晩は知恵熱出して寝込んだ・・。」
武尊の話がまた止まる。
床に置いた盃を取り、両手で持って半分ぐらいになったお酒を揺らしてただそれを見ている。
「大丈夫か。」
「うん、大丈夫。・・こんな時お酒がたくさん飲めたらいいな、ってちょっと思ったの。」
武尊は比古を見てふふっ、と笑う。
比古は、
「武尊、酒を注いでくれないか。」
と、自分の盃を差し出した。
「うん。はい、どうぞ。」
「ありがとな。」
比古は注がれた酒をくいっと飲み干した。
「茶でも入れるか?」
「ううん、大丈夫。お酒がなくなったら自分で入れる。ありがとう。」
比古が自分が人を殺したことを知ってもそのまま黙って自分の話を聞いてくれていることに感謝をした。
武尊はまたお酒をちびりと舐めるように飲むと話を続けた。