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285.長い夜、長い物話(3)(比古・夢主)
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比古の手が酒をあおったのを見て武尊は話を続けた。
「船が横浜に着いた時、新橋へ向かう陸蒸気の時間にもまだ余裕があったし突然伺っても大変だろうからとお昼を食べていくことになりました。
食べ終わって蒼紫がお勘定をしている時、私は横浜の景色を見たくて先に食堂を出たら、初恋の人に偶然再会した。
・・船の上で生きているのなら一目でもその姿を見たいと願ったその人に・・でもこの広い日本の中そう簡単に会えるわけがないと思っていた矢先のことで本当にびっくりした。
そこに蒼紫と操ちゃんが出てきて彼らも顔見知りだったから更にびっくりした。」
比古はびっくりしている武尊の顔が想像できた。
「その男、名は何というんだ。」
少し低めに聞かれた声にドキリとしながら武尊は答えた。
「新選組、三番隊組長・・斎藤一。でも明治では名前を変えて藤田五郎になってた。」
そして焦るようにその先を話す。
「斎藤さんは警官になってて、だから東京で起こっている事件について知っていた。私たちが東京に来た要件を蒼紫が言うと、斎藤さんは緋村さんも薫さんも道場に居ないと言った。理由は行けば分かると教えてくれなかったし、そしてひとまず私を預かると言った。
斎藤さんの話では神谷道場の状況がよく分からないし、その口調からあんまりよくない状況だと推測されたから蒼紫と操ちゃんだけで道場へ行って、結果、私は斎藤さんのお世話になることになった。
斎藤さんも東京へ帰る途中だったんだけど、何か事件の最中みたいで、帰りはその事件の書類が山積みになった馬車に一緒に乗って戻ることになった。
初めて乗った馬車や奇跡的な再会に気持ちが高揚していた私に彼はこの十年何をしていたのか聞いてきた。
私は・・時代を超えてきたこと、作られた人間であることは比古さんにしか言っていないし他の誰にも言うつもりはない。
だから『幕末、新選組屯所から逃げた後はしばらく京都にいたんだけれども、その後江戸に行き、しばらく周辺をうろうろしていた後京都へ戻って陶芸家に弟子入りした』と言った。
これならあながち嘘じゃないし大丈夫じゃないかと思ってほっとしたら、肩の傷を『見せろ』って言わた。
その時自分がどんな顔をしたのか分からないほど驚いていたと思う。
何故彼がこの傷の事を知っているのか、まさか自分は会津で彼に会っていたのかって。
私の記憶のなかで最後に彼と会ったのは幕末の京都。私が肩に怪我をしたと考えられるのは会津で薬を飲んで十六夜丸になった最後の夜だった。
私はその問いに困惑して答えるのに躊躇していたけれど、結局見られてその傷に口づけされた・・。
そしてその後互いに口づけをした・・・」
武尊はこういう話、つまり自分が比古にとって他の男に心も体も奪われたと自分の口から伝えるということは自分の帰りを信じて待ってくれていた比古への裏切り。できれば本当に言いたくないと思っていた。
けれども比古から突き付けられた二つの枷を外す経緯を伝えるためには避けて通れない話だった。
最初は比古に対する後ろめたさが心の大部分を占めていたものの、実際に
「その後、少し気持ちが落ち着いてから十六夜丸が撃たれたのか聞いてみると彼は『そうだ。』と言った。
それ以上の事はまた今度話すと言われて、しばらく馬車に揺られていると、私は自分がお金を全く持っていないことを思い出した。旅費はすべて蒼紫が持っていたし、緋村さんに会ったら恐らくまたみんなで京都へ戻ると思っていたから。
斎藤さんに私が『お金を持ってない、宿代どうしよう困った。』って言ったら『預かるからには金など出させるつもりはない。』って言った。
私はそれでは申し訳なさすぎると思っていたらなんと自分の家に泊めると言ってきた。
私は未来で・・斎藤さんは幕末の動乱を生き残った新選組の数少ない一人で結婚して奥さん子供がいるということを(検索して)知ってたからハッとして急に水を浴びたように心が冷えた。
妻子持ちの夫が私を・・、仮にまだ私の事を好いてくれていたとしても浮気相手?みたいな女を家に連れていくだなんて頭おかしいいんじゃないかと思った。
奥さんだってそんな人が家に来たら嫌だろうし・・。
でも斎藤さんは『時尾はできた妻だ。気にすることはない。』って言った。
あ、”時尾さん”は奥さんの名前です。
いくら出来た妻でも女の側からしたら嫌だろうに、本当にそう思ったけど、自分の夫から、あの斎藤さんの口から『出来た妻』だと言われるほどの女性は本当に素晴らしい人なんじゃないかって思って・・
羨ましくて・・
・・自分は作られた偽人間で・・子供もつくれなくて・・
彼の子孫を残して未来へ繋げることもできなくて・・
・・そんな自分では斎藤一の妻は務まらない
と自分自身を振り返って、斎藤一の妻が自分がでなくてよかったと心からそう思った。」