「武尊は俺に結婚して欲しいのか。」


ハンドルを握り直した一はそう言いながらチラリと武尊を見た。

一の方を向いていた武尊は一の口元にふっと浮かんだ笑みを見て胸の奥がトクンと疼くのを感じた。

無意識に武尊は声を上ずらせ、


「い、妹として心配してるだけだよ！今まで彼女がいたって話聞いてないし！」


と言うと一は、


「そうか？これでも俺はもてるんだぞ。」

と、余裕に答えた。


驚きで思わず「え！？」と声を出した武尊に一が、


「何だ『え！？』とは。」


と答えながら軽く笑う。

そんな一の横で武尊の中で【トクン】は【ズキン】に変わる。


（・・あれ？なんでズキンなの？分かってる、自分の敬愛する長兄はかっこいいし・・。）


武尊の脳裏に自分の部屋に飾ってある兄二人と写った写真を同級生が見た時も次兄と共にキャーキャーされた事がスッと思い出さる。


（でもどんなにかっこよくてもどんなに大好きでも・・私は永遠に妹。ただの妹・・。）


未来の奥さんになる人に今から勝手に焼きもちを焼く自分がつまらなくて武尊はハァとためいきをついた時、一が


「そんなわけないだろうが。」


と軽い溜息を吐いた。


その瞬間、クンとアクセルを軽く踏みつけられ車は加速する。


「もう・・どっちなの！」


自分の気持ちに収集がつかない武尊は助手席側の窓の方をぷいっと向いて目を閉じたのだった。




信号のない高速道路を走り続ける振動が気持ち良くて目を閉じていた武尊はいつのまにか眠ってしまっていた。



「寝たみたいだな。」


一のつぶやきに蒼紫が


「・・そうだね。」


と短く答える。

そして蒼紫は、


「嘘つき。」


と小さくため息をついた。


「何の事かな。」

「別に。」


一の言葉に蒼紫はそう答えると、腕組みをして窓の外を見続けた。


短く終わった会話の後、車はそのまま最初の目的地まで静かに走り続けた。