「何これ！」


帰って来たと思ったら薄手の毛布を持ち出そうとしている一にその理由を聞いたらそれは車に積むという。

首を傾げた武尊が自宅の駐車場を見ると壁に擦れそうなほどぎりぎりに駐車してあるでかい車に驚いたのだ。


「っていうか明日は日帰りじゃないの？！こんなに大きい車借りてくる必要って？！」

「どうだ、いいだろう。」

武尊の驚きを他所に一は自慢げに答えた。


「いや、一にい。『いいだろう』っていうけど‥」


武尊が普通に普通の車でいいのではと思っていたところで一が後方のドアをスライドさせると車の両サイドに横向きのロングチェアーが備え付けてあるのが見えた。

窓にはカーテン、そして小さいながらもテーブルと戸棚がある。


「え！」


内装に驚く武尊にふふんと鼻を鳴らして一は毛布をポンと椅子に放り投げた。


「な？いいだろ。」

「す・・すごいね・・。」


武尊は目を見開いてスライドドアから中を覗き込んだ。


「よくこんな車レンタカー屋さんにあったよね。」


感心しながら武尊が言うと、


「いや、偶然会った後輩が貸してくれたんだ。」

「へええええ～～～。」


その人凄いと思いつつ武尊は机の奥の小さな扉を開けて思わず「あ。」っと声が出た。

そこにはすでに缶ビールが置いてあったのだ。


「これってもしかして小型冷蔵庫なの？！一にい準備早すぎ！」


武尊が呆れて兄を軽く睨むと一は、


「年に数回の兄弟水入らずで話が出来る機会だ。オートキャンプ場は既に抑えたからゆっくりするぞ。」


と、ポンっと片手を武尊の頭に置いた。

反射的に一を見上げた顔にドキッとした武尊は、


「うん・・そうだね・・。」


と思わず俯いた。


＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊



夕方蒼紫が合宿の後片付けとレポートを提出した後帰宅すると、我が家の駐車場スペースにういろうのようにどーんと駐車してあるハイエースに蒼紫は思わず眉をひそめた。


「何だこれは・・。」


と呟きを漏らし玄関を開けた。


「あ、おかえりなさい！」


リビングに入ると餃子の餡を皮に包む武尊と一の姿があった。


「何してんのさ兄さん。」


見慣れない一の行動に驚き半分少しの不快感半分な気持ちになる。

そこに武尊の声がタイミングよく弾んでくる。


「今日は餃子にしようかなって思って。」

「暑い日のビールには餃子は最高だからな。」


一も武尊の声に被せるように答える。

もともと仲のいい自分達兄弟だからこんな風景も当たり前のはずなのに、目の前で楽しそうに共同作業をする二人を見て羨ましく、そして妬ましく思う自分の心が小さくて嫌になると蒼紫は小さくため息をついた。


「蒼紫にい、今日も暑かったでしょ。焼くのにもう少し時間かかるから先にシャワー行ってくる？」

「嗚呼、そうする。」


モヤモヤする自分の気持ちを清めるかのように蒼紫は冷水のシャワーを頭から浴びたのだった。