蒼紫は合宿二日目、午前中の遠泳が終わってからアヒル浮き輪を回収した時にふっと二年前の夏を思い出したのであった。

「早いもんだな、あっという間に二年経った。今年の夏は何処か出かけるんだろうか。後で兄さんに今年の休暇の予定を聞かないとな｡」


蒼紫のそんな思いはよそに、武尊は昨日から大変な目に合っていた。










そんなつもりではなかったのよと、後から店長に言われても殺されるかもしれないという恐怖を体感した武尊は精神的ダメージを受けて一のベッドで兄の胸に抱かれ、丸くなって眠ってしまった。

目には薄ら涙の痕を残して。


武尊は兄を心配させまいと、その理由を言わなかった。

一もその場ではあえてその理由を追及はしなかったが、武尊がそうやって寝てしまった後も一緒に眠るどころではなく、武尊がこうなった原因を推測するのに目が冴えてならなかった。


そんな時、ドンドンと一の部屋の扉の向こう側で音がした。


「何だ？」


一は一瞬蒼紫かと思ったが、合宿へ行っている弟がいるはずなどあり得ないと、枕元に隠してあった木刀を持ってドアに忍び寄った。


（誰だ・・・敵・・か？）


仕事柄やばい橋を渡ってることもある一は細心の注意を払ってドアの鍵を外し、そっと戸を引いた・・・。


１ｃｍほどのわずかな隙間。


一の視線の先には人の姿はなかった。


先程の音は気の所為だったはずはない、とそのまま視線を下にずらしていくと、目が合った・・・武尊の猫に。


「何だ、貴様か。まだ生きていたのか、何の用だ。」


しばらくぶりに会った猫に対してすっかり話しかけることに違和感を感じなくなった一はそう猫に問いかけた。


「ナーゴ。」


その猫はのどを鳴らして一に何か訴えた。


外はぼちぼち日も暮れる頃。


「鳴くな、お前の主が起きてしまう。・・そうか腹が減ったのか。」


一は猫が鳴く理由に見当をつけると仕方がないと猫が部屋へ入らないように廊下へ出た。


「今日は俺が特別に貴様の夕飯の準備をしてやる。」


そう言って一は階下へ降りて行った。