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五月雨(さみだれ)(明治・東京)
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「斎藤さん、よかったですね、御住職が話の分かる方で。」
「フン、あれを坊主と言うな。人里から離れた寺なのをいいことに酒に女、そして盗品の買い付けか・・・最低だな。」
「でも、斎藤さんのひと睨みですべて白状したじゃないですか。」
「まったくそんな事で・・・密偵がこんな遠方まで足を運ぶのはどうなんだと思うが。」
と、言って斎藤は空を見上げた。
「五月雨か・・・。また降ってきたな・・・うっとうしい。」
「仕方がないですよ。梅雨ですからね。でもアジサイがきれいでいいじゃないですか。」
「まあな・・・。」
斎藤、煙草を取り出し一服。
そこで武尊の表情に気がつき振り返ってひと言。
「・・・どうした。鳩が豆鉄砲くらったような顔をして。」
武尊、そんな顔から満面の笑みを浮かべた表情に変わる。
「んん-、斎藤さんがそんな感情を持っているんだってわかったから嬉しくって。」
「おい、俺も人並みに花を愛でる感情ぐらいあるぞ。」
斎藤、『阿呆。』と言いつつ武尊の頭をげんこつでコツンと叩く。
武尊、そんな斎藤を笑って見る。
斎藤も武尊の笑顔にフッと口角を上げる。
煙草を一本ゆっくり吸い終わるまで寺の門の僅かな軒下で雨宿りをするが、やわらかい銀糸のような雨は止みそうにない。
「・・・・いくか。」
「はい。」
「帰るまでにはすっかり濡れるな。」
「それでは傘を借りてきましょうか。」
「返しに来るのがめんどうだ。」
「・・・そうですねこんな所まで、フフ・・。」
確か明日の仕事はこことは全く反対方向へ出向くのだった、と武尊は予定を思い出した。
そして最初から返しに来るつもりなどない斎藤の意に自分も同じだと、思わず笑いがこみ上げる。
「あ-あ、今日も濡れねずみか。ま、いいけど。」
「お前はそうやってまた俺と一緒に風呂に入る口実を作るようだな、確信犯め。」
「違-う!それは斎藤さん!昨日も私が入ってるときに入って来たのは斎藤さん!」
「どうも雨に濡れたままでは気持ち悪かったんでな。」
と、言ってニヤっと武尊を見る。
「うっ・・。」
武尊は小さくうめいて頬を赤らめた。
そんな武尊に斎藤は、
「誰だったかな、昨晩背中を流してやったら喜んでいたのは。」
と追い打ちをかける。
「ううっ・・。」
「誰だったかな、湯船で俺にもたれかかって熱い吐息を吐いていたのは。」
斎藤は実に楽しそうな口調で話す。
「斎藤さんっ!」
斎藤の横を歩いている武尊が恥ずかしさのあまり斎藤を見上げ睨むが、そんな武尊を斎藤は横目でじっとを見た。
その目を見て武尊の心臓がドクッと鳴った。
口調とは裏腹にこの場で犯すぞと言わんばかりの視線。
武尊は即座に前を向き、俯いて黙った。
ドクドクドクドク。
武尊の心臓が速や鳴る。
武尊を虜にするあの視線。
「どうした。」
押し黙る武尊に斎藤は声をかける。
もちろん斎藤には武尊が押し黙っている理由は承知の上だ。
「・・・まあ武尊が嫌だというなら今日は武尊が上がるまで待つか。」
「斎藤さんが先に入ればいい・・・。」
武尊は下を向いたまま答える。
「だめだ。武尊はすぐ体を冷やす。風邪をひかれると困るんでな。」
「・・・・・・。」
なんだかんだと、自分の体調をいつも気遣ってくれる上司の優しさ。
武尊は身に染みて感じている。
お風呂だって別に一緒なのが嫌なんじゃない。
恥ずかしい事を口に出して自分をいじめるからちょっと怒ってみただけ。
雨でぐしょぐしょになった服を脱いでさっぱり気持ちよくなりたいのは一緒。
「一緒に・・・入って・・・、はじめ・・・・。」
武尊は小さくそう言うと、ちらっと斎藤を見た。
「嗚呼。」
斎藤は武尊の視線をしっかり受け止め、口元でフッと笑うと、しっとり濡れた武尊の髪をやさしくよしよしと撫でた。