蒼紫は裏山をいくら探してもいないお増に、もしや葵屋へ戻っているのではと見当をつけ葵屋へ戻ってきた。



蒼紫は朝は座禅をしていて、先ほど豆をいくつか食べただけだったので、軽い運動をしてきた今は少しお腹がすいていた。



そこに台所の方からいい匂いがしていて、自然に足がそちらへ向く。



台所へ近づくとお増と武尊の声がする。



蒼紫は気配を消し台所へ入った｡



お増す大きな鉄なべで大豆を煎っている最中。



「お増、時間切れだ。」



と言って蒼紫はお増の背中にタッチした。



急に御頭の声がしてお増は驚いてヒィイ！と声をあげた。



すると、その声に驚いて武尊がうわぁぁ！と連鎖的に声を出した。



武尊が振り返るといつの間にか蒼紫が立っていた。



「若旦那様！」



蒼紫はいくつか揚げあがったものを見ると



「これか、いい匂いがするのは。」



と言った。



「あ、よかったらどうぞ。熱いので今お箸を用意します｡」



と武尊がその場を離れようとすると蒼紫は



「かまわん、揚げ物の最中で持ち場を離れるな。」



と言って指でそれをつまんだ。



「あっ・・・・。」



「あっ！」



と、お増と武尊が同時に声を出す。



「ん？」



と、今度は蒼紫がそのふわふわを持ったまま動きが止まった。



「どうした｡食べていいと言ったのではなかったのか。」



と、蒼紫が言うと



「もちろん召上がっていただいていいのですが、それ・・・その納豆・・・・今日の私の豆です。」



蒼紫がつまんだ指先を見ると衣がとれた納豆を蒼紫の指が挟んでいる。



蒼紫はまだ武尊にタッチをしていなかった。



投げてはいないけど、鬼のタッチの前に豆が鬼の体に確かに当たっている。



蒼紫は摘まんだふわふわの揚げ物を小時じっと見ると、



「・・・・そうか、そうだったな。」



と言ってフッ、と笑うと、



「俺の負けだな。」



と言って、ふわふわの揚げ物を口に入れた。