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桜の下で(大正・東京)
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「本日も晴天なり・・か。」
藤田五郎、こと【斎藤一】は東京自宅の縁側で晴れ渡った空を見上げ煙草を吸っていた。
いつもなら最後まで吸いきるところだったが、ポンっと灰を指先で庭に落とすと残りを自室の灰皿に押し付け床の間の刀掛けから刀を手に取った。
今ではすっかりご隠居さんと呼ばれる身分だが一日一回以上愛刀を抜かないとどうも落ち着かないのは性分なのかと斎藤は思わずフッと笑ってしまう。
「・・思えば早かったような。」
と独り言をもらしつつ自分もいい歳になった、いつ迎えが来てもおかしくないと納刀すると再び刀を掛けた。
今日に限って何故だか昔のことが思い出されると斎藤は床の間に向かって胡坐をかいた。
志高く新選組に入ったのはもう遥か昔・・と、目をつむり過去に想いを馳せた時のことだった。
「・・・」
藤田は己の目を疑った。
確か幕末の京都、池田屋事件の事を回想していたはずなのに目の前に見える景色は見事なほどに咲く満開の桜・桜・桜。
そしてとりわけ見事に花を咲かせる木の下に膝を抱えうずくまっている見覚えのある姿。
斎藤は目を細めるとククッと笑ってその正面に近づいた。
「おい。」
膝を抱えていたその人物は聞き覚えのある声に驚いて顔を上げ驚いて目を見開いた。
「一・・。」
武尊は賽の河原で斎藤との約束どおり斎藤を待っていた。
ただあまりにも待つのが退屈でその日までずっと体育座りで待つことにしたのだった。
(一がここへ来たという事は天命を終えた、ということなんだろうけど・・)
と思うのだが目を開けてみるとそこは無機質な賽の河原などではなく青い空に満開の桜咲く美しい場所だった。
「何を呆けている。」
「だって・・。」
武尊は言葉を失って斎藤を真っ直ぐに見た。
そこには老人なんかじゃなく出会った時の隊服姿の斎藤がいた。
「一・・隊服・・。」
武尊にそう言われて斎藤も自分の姿にハッと気が付いた。
「そうか・・この姿か・・。」
「うん・・。」
「嫌か。」
「ううん、むしろそれが一番一らしいと思うよ。」
「そうだな。」
そう言った斎藤の髪が風で揺れ桜吹雪がひらひらと舞う。
「でもどうして桜なんだろ。」
武尊が夢のように美しい桜景色と雄々しい斎藤に気を奪われつつ質問すると斎藤は、
「それは俺がまだこの隊服を着ていた頃、お前と京の桜を見たかったと思っていたからかもしれないな。」
思わぬ斎藤の言葉に武尊は驚き、そして嬉しく言葉を詰まらせた。
そしてポンっとある事を思いつき、
「桜・・見に行くのなら会津がいい・・。お城の赤い屋根と桜・・綺麗だよ。」
と言った。
「城は再建されるのか?」
「うん・・まだまだ先のことだけど・・。」
「そうか・・。」
そう答えた斎藤の顔は感慨深い表情だった。
そして、
「なら会津にするか。」
と言い、座っていた武尊の手を引っ張りあげそのまま胸の中へ抱きしめた。
武尊も黙って斎藤の背中へ手をまわし、いつの間にか二人は深い口づけをかわした。
斎藤は武尊の舌を何度もむさぼりながら、
「このまま溶け合ってしまえばいい。溶け合って風になり、晴れの日も雨の日も何年も何年も共に季節を見守ろう・・もう二度とこの手は離さん。」
熱い息を吐いた。
武尊は斎藤の言葉に答えるように己の舌を絡めてその想いに応えるのだった。
「お母さん!お祖父ちゃんが座りながら寝て笑ってる!」
藤田家に今日も遊びに来ていた斎藤の孫が祖父と遊ぼうと斎藤を発見した時そんな言葉を発したのは大正4年(1915年)9月28日の事だった。
2017/4/5
藤田五郎、こと【斎藤一】は東京自宅の縁側で晴れ渡った空を見上げ煙草を吸っていた。
いつもなら最後まで吸いきるところだったが、ポンっと灰を指先で庭に落とすと残りを自室の灰皿に押し付け床の間の刀掛けから刀を手に取った。
今ではすっかりご隠居さんと呼ばれる身分だが一日一回以上愛刀を抜かないとどうも落ち着かないのは性分なのかと斎藤は思わずフッと笑ってしまう。
「・・思えば早かったような。」
と独り言をもらしつつ自分もいい歳になった、いつ迎えが来てもおかしくないと納刀すると再び刀を掛けた。
今日に限って何故だか昔のことが思い出されると斎藤は床の間に向かって胡坐をかいた。
志高く新選組に入ったのはもう遥か昔・・と、目をつむり過去に想いを馳せた時のことだった。
「・・・」
藤田は己の目を疑った。
確か幕末の京都、池田屋事件の事を回想していたはずなのに目の前に見える景色は見事なほどに咲く満開の桜・桜・桜。
そしてとりわけ見事に花を咲かせる木の下に膝を抱えうずくまっている見覚えのある姿。
斎藤は目を細めるとククッと笑ってその正面に近づいた。
「おい。」
膝を抱えていたその人物は聞き覚えのある声に驚いて顔を上げ驚いて目を見開いた。
「一・・。」
武尊は賽の河原で斎藤との約束どおり斎藤を待っていた。
ただあまりにも待つのが退屈でその日までずっと体育座りで待つことにしたのだった。
(一がここへ来たという事は天命を終えた、ということなんだろうけど・・)
と思うのだが目を開けてみるとそこは無機質な賽の河原などではなく青い空に満開の桜咲く美しい場所だった。
「何を呆けている。」
「だって・・。」
武尊は言葉を失って斎藤を真っ直ぐに見た。
そこには老人なんかじゃなく出会った時の隊服姿の斎藤がいた。
「一・・隊服・・。」
武尊にそう言われて斎藤も自分の姿にハッと気が付いた。
「そうか・・この姿か・・。」
「うん・・。」
「嫌か。」
「ううん、むしろそれが一番一らしいと思うよ。」
「そうだな。」
そう言った斎藤の髪が風で揺れ桜吹雪がひらひらと舞う。
「でもどうして桜なんだろ。」
武尊が夢のように美しい桜景色と雄々しい斎藤に気を奪われつつ質問すると斎藤は、
「それは俺がまだこの隊服を着ていた頃、お前と京の桜を見たかったと思っていたからかもしれないな。」
思わぬ斎藤の言葉に武尊は驚き、そして嬉しく言葉を詰まらせた。
そしてポンっとある事を思いつき、
「桜・・見に行くのなら会津がいい・・。お城の赤い屋根と桜・・綺麗だよ。」
と言った。
「城は再建されるのか?」
「うん・・まだまだ先のことだけど・・。」
「そうか・・。」
そう答えた斎藤の顔は感慨深い表情だった。
そして、
「なら会津にするか。」
と言い、座っていた武尊の手を引っ張りあげそのまま胸の中へ抱きしめた。
武尊も黙って斎藤の背中へ手をまわし、いつの間にか二人は深い口づけをかわした。
斎藤は武尊の舌を何度もむさぼりながら、
「このまま溶け合ってしまえばいい。溶け合って風になり、晴れの日も雨の日も何年も何年も共に季節を見守ろう・・もう二度とこの手は離さん。」
熱い息を吐いた。
武尊は斎藤の言葉に答えるように己の舌を絡めてその想いに応えるのだった。
「お母さん!お祖父ちゃんが座りながら寝て笑ってる!」
藤田家に今日も遊びに来ていた斎藤の孫が祖父と遊ぼうと斎藤を発見した時そんな言葉を発したのは大正4年(1915年)9月28日の事だった。
2017/4/5