武尊がお茶を持って戻って来ると斎藤は縁側で煙草を吸っていた。



「どうぞ。」



と差し出された緑茶を前にして斎藤は武尊に言った。



「お前の保護観察だが・・神社でおみくじを引いて帰って来た時はもういいかと思ったがどうやらまだそうはいかなさそうだ。」


「なぜですか？」



保護観察が終わるという事は自由の身になるという事。


だが仇討ちをする前に警視庁出入り禁止になると困るのでそうならないと言われた方が武尊にとっては都合が良かったのだが斎藤がそう言った理由が気になった。



「願い事は叶う・・か。お前、何を願った。」



斎藤にそう言われ武尊の顔色がさっと変わった。


斎藤はそれを見て推測を確信に変えた。



「仇討ちなどと出来もしない事など願ってもお前の親父さんは喜ばないだろうが。」



図星な事を言われ武尊の口は思わず反撃の言葉がついて出た。



「そんなのやってみなくちゃわからない！」



言ってしまってしまったと思った武尊だったがもう後へは引けなかった。



「分かるさ。宇治木はあれでも一応示現流の使い手だ。お前なんぞ手も足も出ん。」



斎藤はそう言って自分の刀を腰から外し刀掛けへ置いた。


自分に背を向けて刀を置く斎藤に、武尊は何か頭の中でぷつんと切れた気がした。



「あああああ！」



何をどうしたかったのか武尊にも分からなかった。


ただこのやり場のない憤りを斎藤にぶつける為に拳をあげて突進した。




「阿呆が。」



武尊に対し、背を向けていたはずの斎藤はくるりと身を返すと武尊の腕を掴んで畳の上に引き倒した。



「自分の実力も分からん未熟者が腐っても元士（さむらい）に手が出せると思うのか。」



腕の関節を捕らえて痛い痛いとうめく武尊に斎藤は言った。


武尊の目から悔し涙がポロリと落ちたのを見て斎藤は武尊を解放した。



「茶を飲んだら風呂を沸かしてやる、ゆっくり気持ちを落ち着かせて来い。」



そう言って斎藤はおかれたお茶をズズズと飲んだ。


斎藤が茶を飲むのを倒れたまま見ていた武尊だったが斎藤が風呂場の方へ行こうとした時立ち上がり、



「私がお風呂を沸かします。」



と言って少しよろけながらも風呂焚きに向かった。