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橋上の対決(幕末・京都)
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「組長、屯所はこちらですよ。」
大晦日の夜を徹して市中を見回ったのは今年は三番隊であった。
もうすぐ夜明け。
通常ならばこのまま屯所に帰って次の組と交代するところであるが、今日は元旦、組長の斎藤はふと一本東の道に架かる橋に寄って帰隊しようと思った。
ここ最近ずっと天気はぐずっており、今朝のような雲一つなく気持ちの良い夜明けは久しぶりだったのだ。
新年の夜明けがこんな天気では初日を拝まないのはもったいない。
「折角の晴天だ。こんなに雲一つない日に初日の出を拝まない手はない。この先の橋から最高の日の出が拝めるはずだ。少し寄ってから帰るぞ。」
そう言って向かった橋の上に斎藤は人影を見た。
「組長、もう日が出ますよ。(見晴のいい)橋の上まで急ぎましょう。」
部下がそう言って走り出そうとするのを斎藤は、
「待て!」
と制した。
人影は斎藤らの方を向いた。
その瞬間、初日が山々の向こうから光を射す。
逆光の中、部下をその場に待機させた斎藤が、橋の上の人物に一歩一歩近づいた。
「珍しい所で出会うもんだな。」
「・・・お互い様に。」
自然と互いに刀を抜いて目で牽制しあう。
まずい時にまずい相手に会ったと十六夜丸は思ったが今はどうにもならない。
「まさかこんな所でお前に会うなんてな。昨晩は何をやらかした。」
斎藤は更に十六夜丸との距離をゆっくりと詰める。
十六夜丸は逆に少しずつ後ずさりして下流の欄干へと近づいた。
「・・別に。」
十六夜丸は不敵に笑って斎藤を見た。
「お前が出てきているんだ、何もないということはないだろう。屯所で洗いざらい吐いてもらおうか。」
「出来るのか?狼。」
斎藤の武尊への想いを知っている十六夜丸は出来るわけがないだろうとフンと斎藤を見ると、斎藤はクッと口角を上げて笑った。
「お前ごときに身体を乗っ取られるなら俺が引導を渡してやるさ。どうした、そう聞いて怖くなったか。刀を持つ手が震えてるぞ。」
斎藤のその気持ちは半分本意だ。
残りの半分は自分達に見つかって欲しくなかったという気持ち。
何故こんな所にいると腹を立てる気持ちが斎藤には合った。
「ふん・・。」
十六夜丸は斎藤の真意を見定めるかのように斎藤の眼をじっと見た。
十六夜丸は斎藤が怖くて震えているのではない。
武尊の身体に留まっている時間がほぼ限界だったのだ。
力が徐々に入らなくなっていく中で必死に刀を握り締める。
その時十六夜丸は斎藤の背後に小舟の影を見た。
「観念する気になったか?」
もう後はないぞと勝ち誇った顔で斎藤が最後の間合いを詰めようと思った瞬間、
「ほざいてろ、狼!」
武尊はそう叫んで残る力すべてをもって突然後方へ飛んだ。
「!」
斎藤は欄干へ駆け寄った。
川の中へと飛び込んだかと思った十六夜丸は川上から来た小舟に乗り移っていた。
「逃げられたか・・。」
橋の上から斎藤が小舟を見た時はこのところの雨で増水した川の流れに乗って追いかけられない所まで流れていた。
倒れ込んで動かない十六夜丸に市彦が用意していたムシロをかけ、その姿を隠した。
流れゆく小舟。
橋の上からそれを見つめる斎藤は心のどこかで安堵していた。
愛しい女は何処ぞへ流れゆくのか。
忘れた事など一度もないその眼、その顔、その姿。
今生で会うのは叶わぬ夢かと思いながらも抱きしめたいと願わずにはいられない。
(生きろよ月王・・生きていれさえすれば俺達はまた出会うかもしれぬ。)
斎藤はそう願って初日を仰ぎ見た。
眩しくて直視は出来ない。
だがその清らかなる光を浴びて斎藤はこの時代を生き抜こうと心に再度誓ったのだった。
2015.01.01