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弐拾(手紙の場所) (土方・沖田・斎藤・夢主・鷹・市彦)
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「何してるんですか!」
蘭丸は男に駆け寄った。
髪はこれまでの拷問の所為かバラバラに振り乱れ気を失ったのかうなだれている男。
薄暗い小屋の中でも分かる、上半身は脱がされ身体には無数の打撲痕。所々皮膚が裂け血が出ている。
帯に引っかかっている着物にも血が付いている。
・・蘭丸にはその着物の柄に見覚えがあった。
今一度ちらっと男の顔を見て確証した。
(鷹だ・・!?)
何故、鷹が?敵は御前様グループではなかったのか?
何故新撰組に?
同時に幾つもの疑問が沸き上がる。
だけど今一番優先させることはこれをやめさせて早く手当をすること・・
蘭丸はじゃり、っと草履を擦りながら鷹と土方の間に入った。
「蘭丸、お前には関係ねぇ、とっととここから出て行け。」
木刀を片手に仁王立ちの土方の凄みは半端ない。
だが蘭丸も『はい、分かりました。』という訳にはいかない。
「どうしてこんなことをするんですか!副長!」
「吐かねぇからに決まってるだろう!そこをどけっ!邪魔をするな!」
「どきません!」
副長は蘭丸を睨んだが蘭丸も引かない。
その緊迫する空気の中に
「あ~あ、蘭丸さんにばれちゃいましたね。」
と、入り口にいた沖田が言う。
「総司、こいつを捕まえとけっていっただろ!」
「だって、蘭丸さん、今日に限って真っ直ぐ部屋に帰ってこないんだから。」
「沖田さんからもすぐ降ろすように言って下さい!」
「無駄ですよ。土方さんのやることは『絶対』なんですから。」
沖田の口元は笑っているが目は氷のように冷たい。
「蘭丸、これが最後の忠告だ。これ以上邪魔するとお前も・・
と言っている所に鷹が何かを言い始めた。
一瞬三人がその言葉に聞き耳を立てる。
「・・・・・・・・・・・ポンポコポンのポンポン。ポンポコポンのポンポン・・・。」
「何を言い出すかと思えば。土方さんちょっとやり過ぎたんじゃないですか?頭逝っちゃいましたよ。ああ・・でも僕それを聞いてるとなんかイライラするなぁ・・」
と沖田は言いながら入り口に立てかけてあった竹刀を取ると蘭丸に動く隙を与える間もなく凄い音が小屋内で響いた。
(な・・竹刀の動きが全然見えなかった。)
蘭丸が驚きつつもすぐさま振り返ると再び鷹はガクリと首を垂れていた。
打たれた耳から血が流れている。
「鷹--!」
蘭丸は思わず鷹の名前を呼んだ。
「蘭子様、、、私はもうだめかもしれません。」
「どうして?今助けるよ。待ってて。」
「土方さん、やっぱりこの二人知り合いみたいですよ。どうします?」
「るせぇ、総司。俺が尋問してんだ、邪魔すんな。蘭丸、勝手なことばかりほざいてるんじゃぁねえぞ、どけ!」
土方が手に持っていた木刀を振り下ろす。
「蘭子様!」
鷹が不自由な体で蘭丸を突き飛ばした。
蘭丸が地面へ転ぶのとバキバキという骨の折れる音が同時にした。
「鷹-----!」
転がった蘭丸が振り返ると口から血を噴出す鷹の姿。
「蘭子様・・・私を置いて逃げ・・・・て・・・・。」
「ダメだよ置いていけないよ!」
そう言って蘭丸は血にまみれた鷹を抱きしめた。
「蘭子・・・様・・・。あの日・・私の名前を・・いい名前と・・言ってくださいました。まるで・・・蘭子様と・・最初に出会ったときと・・同じ・・・。うれしかっ・・。」
息をする度、口から血が溢れる。
「鷹、喋らないで。血が・・・。」
だけどそれ以上鷹が喋る事はなかった・・・動くことも・・・。
「鷹ぁ~~~!」
ぎゅっと抱きしめた腕の中の男に叫ぶ蘭丸。
目の前がぼやけて見えなくなる。
だけどその涙をぬぐうことなく目を見開きゆっくり振り返りながら立ち上がって土方を睨んだ。
ただ一言、すべての感情を込めて
「どうして?」
と土方に言った。
土方は蘭丸になど情報をくれてやるつもりは一切ない。
「ガキに理由など話すつもりはねぇよ。おい、斎藤、こいつを黙らせろ。」
ドクン。
今一番いて欲しくない人の名前に蘭丸の心臓が音が聞こえるかと思うほど鳴った。
隠れる場所もないこの小屋のどこに斎藤さんがいたというのだろう。
だが副長のセリフから考えれば斎藤は一部始終を見ていたことになる。
そして今になって自分の背後に一つの気配を感じた蘭丸だった。
ゆっくり振り返るとそこに斎藤の姿が。
(斎藤さん・・・・そこにいたんだ。全然気が付かなかった。でも今は・・・・涙であなたがよく見えません・・・・。)
蘭丸が今考えられることはただ一つ。
ここから逃げること。
出口は一つ。
しかもこの狭い物置小屋には土方、沖田、斎藤という剣の達人が三人。
だが今の蘭丸は自分の血が熱くて相手がいかに格上かどうかなんてどうでもよかった。
(行けるか・・・・・?)
この場を離れようと思った時に直観的にそう思った。
武器は何もない。
張り詰める空気。
この空気の中で無意識のうちに蘭丸の・・・・いや武尊の本来の運動能力が呼び覚まされた。
逆に三人はまさか、あの、普段から呆け調子の蘭丸には何も出来ないと思っていたのもあって、
「うわぁああああああ。」
と、蘭丸が叫んで土方に突進してきた後、その三人の隙間を潜り抜けて小屋の外へ飛び出した。