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弐拾と弐(終焉に向かって) (兄・夢主・十六夜丸)
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慶応二年 十二月、徳川慶喜が十五代将軍となった。
翌慶応三年 十月、大政奉還。
歴史の激変期を目の当たりにしながら川路探しを続けた。
そして
やっと・・
仇討ちの機会が訪れようとしていた。
慶応四年八月二十日(1868年10月5日)深夜。
(長かったな。)
十六夜丸は一人、安達太良山中腹に立ってそう思った。
戊申戦争勃発後、江戸城無血開城を経て今に至る。
江戸から新政府軍を追って会津近辺まで来た。
随分遠くまで来たもんだと十六夜丸は思った。
この二年と少し、武尊の中に住んで十六夜丸の心境は変化した。
同化の力。
それは依り代の中に入り同じものを見て同じものを聞き、感じる力。
今回の依り代は土岐武尊。
数百年ぶりの獲物だと思うと力を制御出来ずこちらの世界へ引きずり込んだ。
蘭子と同じ顔だから同じ人間だと思い込んでいたが武尊は蘭子とは似ても似つかなかった。
かなり変わった所はあるが、なんて真面目に、なんて誠実に人を見るのだろうか、と十六夜丸は思った。
かつて憑りついた女はどれも全て黒くドロドロしたものを腹に隠していた。
自分を棚に上げ常に他人が悪いと決めつけ恨み言を口にした。
そんな女の身体を奪い、主の命通り相手のはらわたを爪で引きずり出したりしたこともあった。
残酷に殺せば殺すほど喜びを覚えた。
愚かな人間など呪い合えばいい、滅びてしまえばいい。
仕事をする時はいつもそう思った。
主の命令通りに仕事をした後は対価として依り代の精気と快楽をもらう。
それが十六夜丸の糧。
珠のような心を持つ精気はこれまでにない極上の味わい。
犯して得る快楽の気はどの美酒にも勝る。
上玉の御馳走にも関わらず武尊の真っ直ぐすぎる想いが十六夜丸には時折重たい。
反吐が出そうになるのは底に沈めたはずの過去に後ろめたい気持ちがあるから。
武尊の温かい心は遠い昔に自分にも生まれた小さな希望を思い出すから。
そんな思いの積み重ねがいつしか武尊は十六夜丸にとって使い捨てていた女とは違う扱いになっていた。
(武尊・・・不幸な女だ・・。)
依り代ごときに同情するなんてこれまでの自分にはない事だった。
穢れなき精神に満たされたこの身体が心地良くも苛立つ・・・いや、この上なく休まるのだ。
そんな武尊の身体はここ数日の歩き詰めでかなり疲弊している。
それでも武尊が市彦の足について行けるのは十六夜丸が武尊の消耗を本人の知らないところでカバーしているからなのだ。
それぐらい武尊は十六夜丸にとって他の依り代とは違う存在になっていた。
(だがお前の旅ももうすぐ終わりだ。)
と、十六夜丸は武尊の身体に向かって言った。
川路のいる新政府軍は何処から攻めて来るのか。それを見極めるために十六夜丸はこの山にいるのだ。
これまでの新政府軍の行動からすれば必ず鶴ヶ城に進軍するはず。
人間というのは時に裏をかく作戦をとるものだ。
そうすると、この先の母成峠が怪しいと十六夜丸は踏んだ。
(十六夜丸のこの思考は武尊の未来で学んだ知識と無意識下でリンクする)
川路の部隊を特定し、その進路上で不意打ちや切り込み可能な接近戦が予測されるところを狙おうというのだ。
黎明・・夜の闇が少しづつ薄くなる。
その中で十六夜丸はいち早く新政府軍の旗を見つけて目を疑った。
(なんだあの旗の数は!)
眼下に見える錦の御紋。
軍勢をざっと換算する。2000人。
十六夜丸の予想よりかなり多い。
(まずいな・・・・。)
対して、ここに来るまでの旧幕府軍は700~800人の勢力しかなかったような気がした。
(次に俺が再び出られる時間・・今夜までもつのか?)
川路は必ずどこかにいるはずなのだ。
だがあまりに物戦力の差に焦りが募る。
----もうすぐ日が昇る。
意識を失う前にと、十六夜丸は急いで市彦の所へ戻った。
翌慶応三年 十月、大政奉還。
歴史の激変期を目の当たりにしながら川路探しを続けた。
そして
やっと・・
仇討ちの機会が訪れようとしていた。
慶応四年八月二十日(1868年10月5日)深夜。
(長かったな。)
十六夜丸は一人、安達太良山中腹に立ってそう思った。
戊申戦争勃発後、江戸城無血開城を経て今に至る。
江戸から新政府軍を追って会津近辺まで来た。
随分遠くまで来たもんだと十六夜丸は思った。
この二年と少し、武尊の中に住んで十六夜丸の心境は変化した。
同化の力。
それは依り代の中に入り同じものを見て同じものを聞き、感じる力。
今回の依り代は土岐武尊。
数百年ぶりの獲物だと思うと力を制御出来ずこちらの世界へ引きずり込んだ。
蘭子と同じ顔だから同じ人間だと思い込んでいたが武尊は蘭子とは似ても似つかなかった。
かなり変わった所はあるが、なんて真面目に、なんて誠実に人を見るのだろうか、と十六夜丸は思った。
かつて憑りついた女はどれも全て黒くドロドロしたものを腹に隠していた。
自分を棚に上げ常に他人が悪いと決めつけ恨み言を口にした。
そんな女の身体を奪い、主の命通り相手のはらわたを爪で引きずり出したりしたこともあった。
残酷に殺せば殺すほど喜びを覚えた。
愚かな人間など呪い合えばいい、滅びてしまえばいい。
仕事をする時はいつもそう思った。
主の命令通りに仕事をした後は対価として依り代の精気と快楽をもらう。
それが十六夜丸の糧。
珠のような心を持つ精気はこれまでにない極上の味わい。
犯して得る快楽の気はどの美酒にも勝る。
上玉の御馳走にも関わらず武尊の真っ直ぐすぎる想いが十六夜丸には時折重たい。
反吐が出そうになるのは底に沈めたはずの過去に後ろめたい気持ちがあるから。
武尊の温かい心は遠い昔に自分にも生まれた小さな希望を思い出すから。
そんな思いの積み重ねがいつしか武尊は十六夜丸にとって使い捨てていた女とは違う扱いになっていた。
(武尊・・・不幸な女だ・・。)
依り代ごときに同情するなんてこれまでの自分にはない事だった。
穢れなき精神に満たされたこの身体が心地良くも苛立つ・・・いや、この上なく休まるのだ。
そんな武尊の身体はここ数日の歩き詰めでかなり疲弊している。
それでも武尊が市彦の足について行けるのは十六夜丸が武尊の消耗を本人の知らないところでカバーしているからなのだ。
それぐらい武尊は十六夜丸にとって他の依り代とは違う存在になっていた。
(だがお前の旅ももうすぐ終わりだ。)
と、十六夜丸は武尊の身体に向かって言った。
川路のいる新政府軍は何処から攻めて来るのか。それを見極めるために十六夜丸はこの山にいるのだ。
これまでの新政府軍の行動からすれば必ず鶴ヶ城に進軍するはず。
人間というのは時に裏をかく作戦をとるものだ。
そうすると、この先の母成峠が怪しいと十六夜丸は踏んだ。
(十六夜丸のこの思考は武尊の未来で学んだ知識と無意識下でリンクする)
川路の部隊を特定し、その進路上で不意打ちや切り込み可能な接近戦が予測されるところを狙おうというのだ。
黎明・・夜の闇が少しづつ薄くなる。
その中で十六夜丸はいち早く新政府軍の旗を見つけて目を疑った。
(なんだあの旗の数は!)
眼下に見える錦の御紋。
軍勢をざっと換算する。2000人。
十六夜丸の予想よりかなり多い。
(まずいな・・・・。)
対して、ここに来るまでの旧幕府軍は700~800人の勢力しかなかったような気がした。
(次に俺が再び出られる時間・・今夜までもつのか?)
川路は必ずどこかにいるはずなのだ。
だがあまりに物戦力の差に焦りが募る。
----もうすぐ日が昇る。
意識を失う前にと、十六夜丸は急いで市彦の所へ戻った。