※1 記憶を失っている時の名前は変換できません。
弐拾(手紙の場所) (土方・沖田・斎藤・夢主・鷹・市彦)
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「よく無事で来られたな。よかった。」
「何があったというのですか、一体。」
蘭丸は市彦をじっと見た。
市彦はため息を漏らすと、
「もう誤魔化して置くわけにはいかないな。話は少し長くなるが話さねばお前も納得すまい。」
そう言われて周囲をキョロキョロ見回す蘭丸に市彦は言った。
「しばらく空き家だったようだ。誰もいない。安心しろ。」
市彦はふう、と息を吐くと縁側に腰掛けた。
そして少し遠い目をして話を始めた。
「お前は記憶を無くしているから少し前のことから話そう。昔・・・我が秦家は薩摩藩に仕える小姓組の一つだった。お前は本妻の子俺は妾の子。何等かの事情で二人とも寺に預けられていたんだがある時、薩摩藩が我が父を計略にかけて死罪にした。成人前の俺と蘭子は死罪を免れたものの罪人の子供ということでその寺を追い出され露頭に迷っていたところ、某寺で鷹を含め三人世話になっていた。それがこの間のあの寺だ。京の寺院は場所柄公家が後ろ盾になっている所が少なくない。」
「それがあの御前様・・。」
「いや、この間お前が見た御前様は偽物だ。本物の公家は俺達みたいな者の前に姿は見せないだろう。」
やっぱり偽物だったかと思った蘭丸だが話の続きを聞く。
「その公家は長州とつながっていてこの間までは長州の志士達と共に新しい国を作る為、敵となっていた幕府勢力と対抗していたのだ。」
ここで市彦は怒気を帯びた口調になった。
「だが有得ないことに、あの犬猿の仲の長州と薩摩が秘密裏に手を結んでいたのだ。我らの仇(薩摩)と長州が手を結んだのだ。断じて仇に力を貸すことなど出来ない。だから決別し寺を出たのだ。」
(薩長同盟か。史実がこうやって出てくるとリアリティがあるなぁ。鷹が言ってた”いざこざ”ってこういう事だったのか。)
なるほど、と思っていると市彦が蘭丸に聞いてきた。
「俺と鷹だったから何とか寺から出ることが出来たのだがお前も入れて三人だと果たして上手く逃亡できたのか自信がなかった。外出したきり戻ってこなかったから心配したが結果は良かった。鷹に街中を見てきてもらったら蕎麦屋台にいるのが分かったがすぐ連絡が取れなくてすまなかった。」
「いえ、大丈夫でしたので・・。」
「迂闊に接触すると薩摩にお前の面が割れると思って時期を待っていたのだ。だがしかし、何で蕎麦やなんかに?」
と、市彦はものすごく疑問そうに蘭丸に聞いた。
「いろいろ歩いてたら迷子になったんです。お腹をすかせてたら蕎麦屋の御主人が蕎麦を食べさせてくれて。ああやって街中で顔をだしてたら誰か知ってる人が家族に連絡を取ってくれるだろうって言ってくれたので居させてもらったんです。」
蘭丸は嘘をついた。この状況で以前斎藤に言われた『新撰組に捕まったとでも言っておけばいいだろう。』とは言えない気がして。
「そしたら鷹が来てくれて紙を渡してくれたんです。」
と、鷹の近況は伝えておくとすることにした。
「そういえば鷹の帰りが遅すぎるな・・。」
まさか死んだとはこれっぽっちも思っていないその態度に蘭丸はやはり鷹の死を伝えられないと思った。
昔から共に苦労してきた男同士の絆がどれほどい市彦を支えているのか見えたような気がしたから。
兄にとってたった一人の味方が、もう、二度と帰って来れないと、告げることが出来ない。
「兄様、私も聞きたいことがあるんです。」
「何だ。」
「薩摩が私達を利用しようとしているって言いましたが、たった三人。勢力になるとは思いませんが、何に利用しようとしているのですか。」
「・・・・・・・。」
市彦は黙っている。
「私もいろいろ考えたんです。もう一人の私、十六夜丸の力を利用しようとしているのではないですか。かなり、強いらしいですね・・・で、それになる為の鍵が、あの薬なのですね。」
市彦は十六夜丸の名前を蘭丸が口にしたこと、薬のことに気が付いた事に驚きを隠せない。
「どうやってそのことを・・。」
「名前を知ったのは偶然です。薬については飲む理由が不自然すぎます。いくら私が記憶がないからって何でも信じると思うのは間違っています。そして薬を飲んだ私が・・十六夜丸が人を殺めてるって!」
蘭丸は怒りで肩を震わせた。
そこまで知っているのかと市彦は思いながらも、
「薩摩のように自らの非を罪なき家臣になすりつけ今も尚、力で弱き者を虐げる奴等など死を持って償わせるのは当然!我らのような不遇の者を出さぬように天子様を中心とした新しい国にする必要があるのだ!十六夜丸はその為の切り札だ。長州側にこれ以上つくわけにはいかないのだ。」
「だったら兄様が薬を飲めばいいじゃないですか!強くなれる薬なんでしょう?」
蘭丸は本当にそう思った。
だが市彦は肩を落としながらこう言った。
「・・あれはお前にしか効かない。代わってやれないんだ・・。」
「え?」
市彦は驚きを隠せないで固まっている蘭丸を見て、
「俺も熱くなりすぎた。お前も腹が減ってるだろう。何もないが何か作ろう。」
そう言うと市彦は立ちあがると水を汲みに下に下りて行った。
かつて戦場では殺戮に対する理性を失わせ一時的な戦闘能力をあげるために非合法な薬が使われていたことがある、と聞いたことがある蘭丸だったが、特定の個人にしか効果がなく、まして、刀を持った経験がないものが使いこなせるまでになるような薬があるのか・・。
(そんなもの、聞いたことがない!有り得るはずがない!それにまだ、話は終わってない。謎はすべて解明されていない。)
そう思ったが続けるタイミングを失った。
頭を整理する時間も欲しかった。