100.世の中とはこんなもんです (斎藤・夢主・時尾)

かれこれ家にたどり着いたのは、診療所を出てすでに半日は過ぎていた。



歩く速さはいつもの半分以下。



休憩もたくさん。



武尊は今日も自分の所へ来てくれたのは巡察の途中だと知って斎藤に申し訳なくて何度も謝った。



だが、斎藤は、



「たまにこんなにゆっくりする巡察も悪くない。」



と、さほど気にはしていなかった。



それよりも頭の中は先ほど決まった“対時尾対策“がうまくいくかどうかでいっぱいだった。



巡察がてら武尊の見舞いに行ったはいいものの、まさか退院だとは思ってもなく機転を利かせて自分の上着を貸してはみたが、せめて代りの制服があれば時尾にバレる確率はもっと下がったはずだった。



が、今更それを言ってもしかたがない。



ただ、一つ自分達にとって救いなのは、今日は時尾が月に一度お茶を習いにいっているというその日なのだ。








二人が藤田家へ戻ったのは夕方前、主人が帰ってくるには早すぎる時間である。



斎藤はいつも通り玄関に入り念のため妻がいない事を確認する為、



「帰ったぞ。」



と、声をかけた。



しーん・・・。



物音のしない我が家に、



(よしっ!)



と、気合を入れると



「いいぞ、武尊裏へまわれ。」



と、斎藤は玄関先の武尊を呼びいれた。



そして二人は即座に風呂場へ向かった。



武尊は入院中、誰かによって体は拭かれていたものの、髪の毛は汗と脂でゴワゴワしていてしかも病院の匂いが微かにしみついていたからだ。



「武尊、上脱げ、頭こっちに出せ。どうせ背中が痛くて腕が上がらないだろう。」



「は、はい。」



斎藤に言われるまま、上着を脱ぎ頭を下にして



斎藤に首を差し出した。



斎藤は桶に残り湯を入れ、包帯にかからぬようそっと、頭に注いだ。

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