事務所からの帰宅途中、ぽつぽつと雨が降ってきた。
あいにく傘をもっておらず、近くのコンビニの軒下で雨宿りをする。

コンビニならビニール傘も買えるのに、今はどうしてもそこから動く気になれなかった。
ただ、雨を弾くアスファルトを見つめる。
そうしていると、少し濡れた革靴が視界の端で止まった。
思わず顔を上げると、そこには傘を指した神宮寺さんが居て、目が合う。
どうしてこんな所にいるんだろう。
そう思ったのを察したかのように、彼は声を出した。

「雨降りそうなのに、事務所出ていくのが見えたから。」

そう言って彼は差しているのとは違う傘を私に渡してきた。

「女の子が体を濡らすと、良くないからね。」
「......ありがとうございます。」

それを受け取ると、彼は満足げに微笑んだ。

神宮寺さんはいつも優しい。
人のことをよく見てるし、その人が求めているものをすぐ察知する。
彼と相対していると、心を裸にされているような感覚に陥る。今日の仕事で失敗して落ち込んでいる事まで、見透かされているみたいだ。
暖かい優しさが、心に染みる。

お礼を言って傘を受け取るも、動き出そうとしない私の隣で、彼はただ静かに寄り添ってくれた。


どれくらいの間そうしていたか、わからない。
いつの間にか雨は上がり、所々で陽の光が差した。

「いこうか。」

呟いた彼の声色はやっぱりとても柔らかで、泣きそうになった。
こちらを見る神宮寺さんの瞳は、濡れた地面が反射してキラキラと輝いていた。