Fate
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私は今まで異性を異性として認識したことがなかった。
けれど、目の前に佇む男には不思議な魅力を感じた。
男は私に手を差し出し、怪しく微笑んだ。
「もう、こんな世界は嫌だろ?」
「オレにはアンタが必要だ。」
「オレと一緒に、楽しいところに行こう。」
私は迷わずその手を取った。
―――
物心が着く頃には、私が普通の子じゃないということを感じていた。
私は協会の門前に捨てられていたらしい。
神父からそれを直接聞いたことは無いが、隠されていた訳でもない。言われなくても周囲の目線などから気づくものである。
神父の好意で小中と学校に通わせてもらったが、当然の如く馴染めなかった。
私は人とどう接すればいいか、分からなかった。
神父は私に優しく微笑んでくれたが、私のことで周りに批判されることが多かったことを知っている。腹の底では何を考えているか分からないのが人間だと、その時に気がついた。
人から望まれたことなんてなかった。
自分が必要とされる未来なんて無いと思っていた。
私は、男に手を差し伸べられた時、初めて人から望まれる幸福を知ったのである。
だから、この男のためなら、私は命さえ惜しくない。
そう、思ったのに。
「はぁ。なんかお前つまんない。」
生臭い臭いが立ち込めた、暗くて広い忘れ去られた貯水槽の奥。
からん、と金属と金属が触れ合う音が鳴る。
雨生龍之介と名乗った男は、ゴミでも見るかのような瞳を残してメスを置いた。
「どうして、わたし、なんで、」
「いや、あのさあ......。」
意気揚々と殺し方を吟味していた先程までと打って変わって、脱力するように地面に座り込んだ。
せっかく私を求める人に出会えたと思ったのに、どうして殺してくれないのだろう。
私は生きている価値もなければ、死ぬ価値もないのだろうか。
ぼわぼわと浮かんできた考えをかき消すように、彼に問いかけた。
「私の何がいけなかったのですか。」
すると彼は、急にキラキラした表情で饒舌に語り始めた。
「恐怖に歪む顔!生きたいと媚びる姿!絶望を感じる瞬間!オレはそれを感じたい!......なのにさあ。」
私を視界に入れた瞬間に消沈し、がっかりだよ。と悲しそうに愚痴をこぼす。
「アンタみたいに死にたいと思ってる奴が生きたいと足掻く様は、最ッ高にきらめくと思ったんだけどなぁ......。」
彼はそう言って少しだけ頭を上げ、こちらを見た。
光のない細い瞳が私を射抜く。
「私、雨生さんに喜んでもらえるようになりたいです。」
気がつくと口が勝手に動いていた。
彼は特に興味無さそうに相槌を打った。
今はそれでも良い。
私は雨生さんに喜んでもらえるような人になる。
たった今、そう決めた。
私の人生で初めてできた、目標だ。
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