名探偵コナン
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その日は午後から雨が降った。
雨は嫌いじゃないけれど、止まずに降る粒を見て、特別に落ち込んでしまった。なぜなら今朝、天気予報を見るのを忘れて出勤してしまったからだ。
帰路の途中で雨に降られた私は、雨宿りをするため、
仕方なく近くの店に足を踏み入れた。
からん、と小さく音を立てて扉を閉める。
「いらっしゃいませ。」
若い男の店員さんは、明るい髪色と反対に、落ち着いた笑顔で出迎えてくれた。
お好きな席にどうぞ、と言われ、奥のカウンター席に座り、カフェオレを注文した。気分が落ち込んだこんな日は、カフェオレの甘さに癒されたい。
この喫茶店に入るのは初めてだが、果たして味はどうなのだろう。店内の雰囲気は、落ち着いていて好感がもてる。
ふとカウンターの向こうに目をやると、先ほどの店員さんがコーヒーを入れているのが見えた。
丁寧で、それでいて手際が良い。
慣れているのか、もともと要領が良いのかは分からないが、見ていてとても気持ちがいい。
しばらく見ていると視線を感じたのか、手元を見ていた店員さんは、目線だけこちらに向けた。
(あ。)
ばっちり目が合ってしまった。
しかし、何も考えずにぼうっと見ていただけの私は、すぐに反応する事が出来なかった。きょとんとした顔の店員さんは、それから少しだけ頬をゆるめた。
「もう少し、待っていてくださいね。」
店員さんはニコリと笑い、作業に戻った。
待ち遠しく思って見ていた、と思われたのだとしたら、とても恥ずかしい。食いしん坊の小学生みたいだ。
他の人に見られてはいなかっただろうか、とつい周りを見渡すが、雨のせいで客が少ない店内ではその心配は必要無かった。
そうしているうちに準備ができたようで、カウンターの向こうから、カフェオレを差し出される。
「どうぞ。」
今度は、さっきより近くで目が合った。
「あ、ありがとうございます。」
2度目の恥ずかしさを紛らわそうと、ストローに口をつける。
あ。おいしい。
丁度いい苦味と甘さだ。私が今欲していた分量にぴったりで、驚いた。
さっきまでの恥ずかしさなどは、一瞬でどこかへ行っていた。
「おいしいです。これ。」
勢いよく顔を上げて、思わず話しかけてしまった。
いきなり話しかけて、迷惑では無かったか。びっくりしただろう。と一瞬焦ったが、それでも店員さんは笑って返してくれた。
「ありがとうございます。カフェオレは得意なんです。」
「そうだと思いました。」
反射的に口から出てしまった言葉には少しひっかかったようで首をかしげてどうしてですか、と問いかけてきた。
「あー、えっと。」
どうしよう。
丁寧で手際が良かったから、と言うなんて、なんだか恥ずかしい。
少し迷った挙句、じぃ、と見てくる店員さんのキレイな瞳に負けた。
「...店員さんがコーヒー入れてる時、すごく丁寧で、手際が良かったから、です。」
顔を直接見るのは恥ずかしくて、もう半分以上減っているカフェオレに目をあずける。
あぁもうなんだこれ。告白みたいだ。めちゃくちゃ恥ずかしい。
そんな私を気にせず、店員さんは笑った。
「あはは。告白みたいですね。」
「そ、それ、今私が思った所です!恥ずかしいから言わないでください!」
恥ずかしく思ったことをサラッと言われ、更に恥ずかしくなる。思わず言い返すが、向こうは全く気にしていないようだ。
「あはは。すみません。」
この人、絶対Sだ。分かってて言ってる。絶対!
少し拗ねたふうにカフェオレを飲んでみても、やっぱり美味しい。
きっと、このカフェオレには敵わない。
「でも、少し元気でたみたいで良かったです。」
店員さんから、突然、ぽんと落とされる言葉。
何事もないように、自然にかけられたその言葉に戸惑ってしまう。
頭にハテナを浮かべたまま理解できていない私を見て、彼は言葉を続けた。
「あなたが店に入ってきた時、落ち込んでいるように見えたので。」
そう言ってから、優しくはにかむ店員さん。その周りには、輝かしいエフェクトがキラキラと舞っている。
この人、私が落ち込んでいたことに気づいていたのか。
それで、わざと恥ずかしいことを言ったり、言わせたりしたのだろうか。そうなのだとしたら、とんでもなくできた人だ。
常連でも何でもない私のことを、気にかけてくれるなんて。
「あと、僕の名前は、安室です。覚えてくださると嬉しいです。」
安室さんが言葉を発する度に、私のみぞおち辺りはぎゅう、と締めつけられる。
なんだか懐かしいその感覚に、体が熱くなった。
その後、どうやって家まで帰ったのかはあまり覚えていない。
しかしこのどうしようもない感情だけは、はっきりくっきりと残っている。
そして、カフェオレだけじゃなく、
私はきっと、安室さんにも敵わないということも。