混ざって
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健人がいなくてもわたしの日常はふつうに続いた。
あたりまえだ。
付き合っていたときだって、会える日の方が圧倒的に少なかったんだから。
起きて、会社に行って、帰って、ご飯食べて、寝て、また起きての繰り返し。
7年も付き合った恋人と別れたというのに、なぜか涙のひとつも出なかった。
悲しいとかつらいとかそういう感情もなかったけれど、ただ時折、不思議な感覚におそわれた。
めんどくさがりな性格なはずなのに、お皿はすぐ洗わないと気が済まない。
飾ってある花を見ると、なんの花だろうと名前が気になる。
ハチミツの入っていない牛乳には物足りなさを感じる。
健人の癖や習慣が、いつしかわたしの癖や習慣になっていた。
それはまるで、わたしの中に健人の半身が生きているようだった。
だけど、いつかこの半身も死ぬときがくるのだろうか、と靄がかかったような頭で考える。
健人に別れを告げたあのときから、酸欠のようなぼんやり感はずっと続いていた。
その日は朝から身体が重かった。
なんとかなるだろう、と思って出社したけど、見通しが甘すぎたらしい。
残業を終えて会社を出る頃には、同僚にも心配されるほど風邪の症状が悪化していた。
ふらつきながら帰り道を歩く。
家、なんにもないな。
冷えピタやゼリーを買って帰ったほうがいいことはわかっていたけれど、そんな余裕がないくらいしんどくて、結局まっすぐ家に帰った。
やっとの思いで部屋に着き、服も着替えずそのままベッドに倒れこんだ。
一人暮らしの風邪ほどやっかいでしんどいものはない。
明日が休みでよかった。
熱がかなり上がってることは体温計を使わなくても分かった。
頭がガンガンと痛む。
─── もし健人が風邪を引いたとしてもわたしはもう看病しにいけないのか。それはちょっとやだなあ。
朦朧とするなかでそんなことをふと考え、わたしは意識を手放した。