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「だからね、高校までのわたしは超絶純情でそれはもう可愛いもんだったんだから!!」
『はいはい、キスの回数まで数えてるくらい超好きだったんだろ。それ100回は聞いたわ』
「中高合わせて4年間も付き合ったんだよ?!なのに「いいかげん重い」って、ならもっと早く言えよ!!!別れたあとすーぐに校内1の美女と付き合ったのいまだに根に持ってるからな!まぁ顔が抜群にかっこよかったからこちらとしても納得せざるを得なかったんですけど!!!」
『それも200回くらい聞いた』
てか毎回微妙に元カレのこと褒めんのやめろ、と大きくあくびをしながら、風磨がテーブルの上のもう空になったお酒の缶たちを集めて捨てる。
黒いラベルの空き缶には、このあいだベリーショートにしたばかりのわたしの金髪がうつって、すぐにそれもくしゃりと風磨の手の中で潰されてゴミ袋の中へ消えた。
『でも「重い」って言われたからって、大学入った途端遊びまくるようになったあたり、ほんと素直で可愛い性格だよなお前』
「うるさい!月1で連れてる女の子変わってる風磨に言われたくない」
『はは。まぁ似たもん同士仲良くやってこーよ』
壁に寄りかかり、目を閉じながら笑う。
大勢の飲みの席では積極的に盛り上げ役に回る風磨だけれど、2人で家飲みをするときは、ある程度飲むとたいてい眠そうにし始める。
「…まあ、風磨がいてほんとよかったとは思ってるよ。しょーもない話もどうしようもない話も全部話せるもん。ほんと楽」
『お、めずらしくデレてんじゃん』
「だからうるさいよ」
『まぁ、オレもお前いてよかったよ』
そう言いながらふにゃっと笑い、しばらくすると、いつも通り、すうっと心地よさげな寝息が聞こえ始める。
話し相手がいなくなるとお酒が進まなくなるのも、いつも通り。
手持ち無沙汰になって、酔いが回った頭で、ぼんやりとテーブル越しの寝顔を見つめた。
少し色落ちしたアッシュブラウンの髪が、薄そうなまぶたに、はらりと落ちている。
本当に、風磨がいてよかった。
全部さらけ出した上でそれでも受け入れてくれるという安心感と、それでいてお互いにある程度の距離感を保てる相手。
今まで近づいてくる男は、どれだけ友だちとして仲良くなったと思っても、結局身体を求めてきたし、そんなもんだよな、と思って、わたしもそれを受け入れてきた。
だけど、風磨とはただの一度も、そうなったことはない。
ふらつきながら立ち上がり、風磨の前まで行って座り込む。
彼の寝顔は、普段の表情よりも少しあどけない。
つーっとそのきれいな鼻筋を指でなぞる。
幼い、を通り越して、なんだか赤ちゃんみたいな顔だな、と思う。
「え、菊池風磨と付き合ってるんじゃないの?」と、友人たちに尋ねられるたびに「付き合ってないよ、ただの友だち」と笑いながら返してきた。
そう。わたしと風磨は決して付き合ってなんかない。
けれど。
その寝顔に顔を近づけ、小さく、くちづける。
風磨は、さっきと1ミリも変わらない顔で、気持ちよさそうに寝息を立てている。
寝ている彼に、初めてキスをしたのはいつだったろうか。
わたしと風磨は、決して付き合ってない。
それなのになぜだろう。
このキスが、親愛の情からのものなのか、ペットにするようなものなのか、単なる酔いからの欲情なのか。
何度回数を重ねても、わたしはいまだにその答えが分からずにいる。
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