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次の日も、その次の日も、現代文の授業で先生と目が合うことは一度もなかった。
いくら気持ちがわからないと言ったって、さすがにここまでされたら、嫌われてるんだろうなということは、相手が先生じゃなくたって、わたしも気づいたと思う。
先生へ質問に行かなくなったわたしを、周りの友人たちは訝しんだり心配したりしていたけど、あいまいに「押して駄目なら引いてみよっかなってぇ」と言ってごまかした。
授業が終わり、「今日パフェ食べに行かない?」という誘いを、電子音とともに届いたメールを確認して、断った。
先生を待たない放課後は暇だ。いつもなら先生のことを考えてあっという間に過ぎる時間を、教室で参考書を開いてやり過ごす。
次第に問題に夢中になっていたみたいで、気づけば外はもう暗く、他の教室は真っ暗で、窓から見えるグラウンドも、すっかり人がいなくなっていた。
時計を見上げ、そろそろか、と鞄に荷物をまとめて持ち上げる。
「あ」
声が漏れたのは、キーホルダーがなくなっていることに気づいたからだ。
どこで落としたんだろう。
せっかく先生からもらったのに。
本当は今から校内を探しに行きたいところだったけど、もう時間が迫っていて、ため息をついて諦めた。しょうがない、明日の朝早く来て探そう。
暗い校内に、ひたひたとわたしの足音だけが響く。
このお金持ち学校は、無駄に校内が広い。指定された3年の教室は、その校舎の中でも一番端の方にあって、たどり着いたときには、時間ぴったりになっていた。
ドアを開いて、「………あの」と中を見渡したとき。
ドンッ、─────と突き飛ばされるのと同時に2つの影がわたしを覆って、両腕をそれぞれ掴まれ、教室の奥へ引きずり込まれた。
「マジで来やがったんだけどウケる」
「案外△△さんが言うよりチョロくね?」
押し倒されて身動きの取れないまま、下卑た声が上から降ってくる。顔は知らないけど、制服を着てるから、たぶんうちの男子生徒だ。
「メール信じちゃった?ゴメンね、中島はいないよ」
「中島の名前出したらすぐ引っかかるってほんとだったな」
「超純粋なんだね〜かわい〜」
ねっとりと頬を撫でる手の気持ち悪さに耐えられず、首を振って払い除ける。
帰り際届いた、先生を装ったメール。
すぐ嘘だってわかったけれど、先生に危害が及ぶ可能性を考えたら無視できなかった。
彼らが口にしていた△△という名前は、しばらく前に、先生に迫っていた先輩の名前だ。先生に振られた途端、家の力を使い学校に圧力をかけて先生に嫌がらせをしていて、だからわたしは、その先輩の校内セックスの写真で、彼女を脅したんだっけ。
大人しくそのまま卒業したから、もう記憶から消えかかっていたけど、彼女の方はずっと根深く覚えていたみたいだ。
両腕を押さえた手に、身をよじって抵抗してみるも、到底男2人の力には敵わない。
「やーごめんね〜、オレら△△さんの家には親が世話になってっから逆らえないんだよ、本当はこんな手荒なことしたくないんだけどさぁ」
「いや、オレらもこんな教室じゃなくてちゃんとホテルに連れてってあげたいんだけどね、△△さんがこの教室をご所望なのよ」
……ああ、そっか。彼女がセックスしてたのもこの教室だったからか。同じ場所で今度はわたしの写真を撮ってこい、という指示なんだろう。
ほんと、相変わらずねちっこくて最低な女。……まあ、別にいいけど。
「写真は〜まあヤり終えてからの方がいっか」
「あれ?意外と抵抗しないね?」
「………」
「ちょっと〜無視しないでよ。こっちとしては多少抵抗された方が気分が盛り上がるんだけどなぁ」
ゲラゲラと笑う声に、せわしなく身体を撫で回す手たち。
人間としての理性や倫理観がとうに失われた澱んだ目がわたしを見下ろして……でも、わたしも同じかもしれない。今から犯されるという状況になっても、1ミリも感情が動かないんだから。
─────むしろ、先生に何もなくてよかった。
安堵で出た笑みを、彼らはバカにされたと感じたらしい。
「ッ笑ってんじゃねえよ気持ち悪りぃな!!頭おかしいんじゃねぇの?!」
容赦なく平手打ちをされ、痛みで眉をしかめたわたしを見て、彼らは満足げにブレザーのボタンをブチブチと力ずくで外す。
そのままワイシャツもボタンを引きちぎられ、ブラの上から思いっきり胸を掴まれ、鋭い痛みが走った。
「ほら、泣いて嫌がれよ!そのほうが良い写真撮れんだから」
「マジで気持ち悪りぃなこの女、ずっと無表情とか、もしかして目開きながら意識飛んでんじゃねえの?」
よだれを散らして喋りながら、その手はブラのホックを外して、もう1人の手はスカートをめくり上げショーツを引き下ろして。
胸を這う感触も、ベルトを外す金具音も、もう一度振り下ろされた平手さえも、ぜんぶ無感覚で、……だけど最後に先生の顔が頭をよぎったときだけ。
………こみ上げそうになった感情は、握り潰して殺した。
────もう、なんでもいいや。
そう目をつぶった時、眩い光が教室を照らした。
『……ッお前ら何してる!!』
怒号、と言うには激情にあふれすぎた声。
影が目で追えない速さでこっちに向かってきたかと思えば、瞬間、骨のぶつかる音が2回。
わたしを覆っていた2人の背中は目の前で崩れ落ちて、気絶したのか、動かなくなる。
やっと視界が晴れた、と思ったら、すぐ別の影に覆われて、息がつまるほど強く抱きしめられた。
先生の匂いだ。
『………ッ…〇〇…っ』
わたしの名前を呼ぶ声に、「、せんせ」と小さく答えると、細く息を吐く音が聞こえた。
こんな格好で、あいつらに触られた肌で先生にくっついているのが申し訳なくて、身体を離そうとすると、身動きが取れないくらい、よけいに強く抱きしめられる。
その腕は、酷く震えていた。
『……っ…ごめん……っもっと早く来られてればっ…』
怒りと、悲しみと、後悔と、……あとなんだろう。
抱きしめられて先生の表情は見えなくて、だけど、やっぱりきっと、あの痛むような顔をしている気がして。
「…、せんせ、大丈夫だよ、全然わたしへいきだよ。先生のおかげで最後までされなかったし、ぜんぜん、」
広い背中をさすろうとすれば、腕を掴まれ下ろされて。
……泣きそうな顔と、目があった。
『平気じゃ、ないだろ……、平気じゃ、ないんだよ……っ』
先生が着ていた上着を羽織らされたあと、もう一度、今度は壊れ物に触るように、わたしを抱きしめる。
温かい体温に、何も感じなかった頰が、じん、と鈍い感触を思い出す。
……そっか。わたし、痛かったんだ。
おずおずと先生の背中に腕を回すと、大きな手で頭を撫でられて、その感触に、つめていた息が漏れた。
せんせ、せんせ、と繰り返すわたしに、先生はただ腕の力を強めてくれて、その腕に甘えて、わたしは子どもみたいにぎゅうぎゅうと先生の服を握りしめた。
肩越しの息は、かすかに残った震えを抑えるように、静かに吐き出される。
そして。
先生はゆっくりと身体を離し、赤い目を苦しそうに細めながら、
『……オレら付き合おうか』
と言った。