最終話〈後編〉
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
電車を乗り継いで、数十分ほど車内で揺られて、ようやく街に出た。
視察や商談で何度か訪れたことがある都心よりも、ここはだいぶ落ち着いていて、心なしか人の顔つきも穏やかな気がする。
胸元のポケットから、一枚の紙切れを取り出して、そこに書かれた住所をスマホのマップに打ち込んだ。
殴り書きの文字に、スーパーモデルもこういうとこは雑なんだよな、と苦笑し、出国前の彼女との会話を思い出した。
「わたしの人脈でようやくわかったんだからね、その住所!」
『わかったってば、ありがとう』
「もう、そもそも追いかけるのが遅すぎるの!言ったよね、健人の悪いところは遅れるところだって!てっきりわたしは、あのあとすぐ彼女のところへ行くと思ってたのに」
『それはだって、会社のこともあったし』
「だから、きちんとおじさまとおばさまに説明して、根回ししてあげるってあのとき言ったでしょう? …わたしだって、健人にはずっと悪いと思ってきたのよ。あの子なら、健人のこと幸せにできるって思ってたのに」
『ふふ、ありがとう。…でもね、あのときはオレが幼すぎたんだよ。全然彼女に釣り合ってなかった』
「…だからって、4年もずっと仕事ばっかり。営業利益を何%上げるのが目標だったか知らないけど、それまで会いに行かないとか、ほんとに頑固なんだから」
ぶつくさ小言を言い続けるニナは、数年前と比べて、ますますその美貌に磨きがかかっているのに、中身は良い意味でずっと身近に感じるようになった。
「どうするの、4年も経ったんだからあの子に彼氏がいても不思議じゃないっていうか、むしろそっちの可能性の方が高いんじゃない?」
『それならそれで、どうやってアプローチしていくか楽しみだよ』
「……余裕そうでムカつくわ」
べーっと舌を出しモデルらしからぬ表情をしたニナを思い出して、顔を上げると、目の前を背の高い男性が通り過ぎ、そういえばあの男性が持っていたバッグのブランドモデルはニナだったと、重ねて笑ってしまった。
さて、マップで示された住所はもう少し先そうだ。
それに、まだ昼間だから、もしかしたら彼女は大学に行っていて留守かもしれない。
居てもたってもいられなくて、空港から直接この街へ来たけれど、夕方ごろ尋ねた方が確実だろうか。それならどこで暇をつぶそう。
あたりを見回したとき、さっき通り過ぎた男性がこちら側に手を振っていて。
彼の待ち人が来たのだろうか、と後ろを振り向いたとき。
「せん、せ…………?」
目が合って。
記憶の中より少し大人びた彼女。
唇の色は、あの日オレがあげた色。
立ち上がり、一歩ずつ近づくと、大きな目はゆらゆらと揺れていて。
そっと、彼女の手を取る。
言うべき言葉は、ずっとずっと、4年前から用意していた。
もう前置きの数秒でさえ、待てない。
『好きです。オレと付き合ってください。後悔はさせないから』
彼女は目を見開く。
何度も瞬きをし、唇を震わせて。
「え、っ、ほ、…ほんとに、先生?」
『うん』
「先生が、わたしを、好きなの?」
『うん』
「わたしに、付き合ってって言ったの?」
『うん………ダメ?』
眉を下げれば、彼女の顔はくしゃりと崩れて。
「ダメじゃないっ……、ダメなわけない…!」
ぶつかるように胸に顔をうずめて、「好き…っ…大好き…!」と泣きじゃくる彼女の背中に手を回した。
あの時と変わらない、懐かしい響き。
細くて危ういと思っていた腕は、オレよりずっと強くて逞しかった。
君が何度も伝えてくれた言葉を、今度は倍以上にしてオレが伝える番だから。
『……ところで向こうにいる男、誰?さっき君に手を振ってたけど』
「ジェームズは大学の友人で…って、そうだ、待たせっぱなしに」
『ただの友だちなんだよね?……よかった、1からアプローチってどうやればいいんだろって内心焦ってた』
「ちょ、先生、放して!いったんジェームズのとこ行かせて!」
今度こそ、繋いだ手を離さずに。
そして、君の見る美しい世界を、隣で見せて。
『ていうか、オレ、もう君の先生じゃないけど』
「えっ…」
『ジェームズばっかずるくない? 彼氏の呼び方、あるんじゃない?』
これまでも、これからも、ずっと。
君は、僕のひかり。
ありがとう。
3/3ページ