君との関係
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「もう勝手にすれば?!風磨のドアホ!!!!」
『は?!じゃそうするわ。明日大事な撮影あんだよ。この時間無駄だわ、切る』
ツーツーとなる機械音に、スマホを思いっきりベッドに投げつけたくなるのを我慢した。
風磨のバカ。アホ。明日思いっきりタンスの角に小指ぶつけろ。
それでも10分くらい経つと憤りは収まって、かわりに襲ってきたのは虚しさだった。
久しぶりの電話だったのにな。
近況報告してるうちに途中から言い合いになってしまった。
ついこの間ツアーが無事終わったかと思えば、息つく暇もなく舞台の稽古が始まったらしく、風磨は最近すごく忙しい。
もちろんわたしと会う時間なんてものはほとんどなく、最後に会えたのはいつだったか、思い出すのに時間がかかるくらいには会えていない。
それについては寂しいけどしょうがない。仕事に本気な風磨を知ってるから。
だけど。
「ラインくらい返せバカ」
付き合い始めの頃はマメに返してくれていたラインも、次第に「ん」とか「りょ」とかそんなのばっかりになって、気づけば既読無視がほとんどになっていた。
ラインを送らなければ、こんなにもやもやすることもないのだろうけど、会わない上にラインさえしなくなったら簡単に自然消滅してしまいそうで、焦ってその日あったどうでもいいことなんかを送ってしまう。
風磨とのトーク画面は、だいたいがわたしの言葉で埋まっていて、それぞれの吹き出しの面積が、そのままお互いの気持ちの大きさに見えた。
もしかして、風磨の中ではわたしのことなんかとっくに終わってんのかな。
何度も何度も頭をかすめてきたその考えが、今日はやけにはっきり浮かんだ。
……もしそうだったら、わたし相当うっとおしい女じゃん。
どうでもいいラインばっか送って、電話したらキレて。
もしかして、付き合ってると思ってたのもわたしの勘違いだったのかも。
風磨にとっては、何人もいる遊び相手の1人だったのかも。
1度思い始めると、否定したいその考えは頭の中でどんどん大きくなっていって。
「もう、やめよ」
自分に言い聞かせるように呟いた。
電話で喧嘩したあの日から数日。
わたしがラインを送るのをやめたら、当たり前だけど風磨との繋がりはぱったりなくなった。
終わるときってこんなあっさりなもんなんだ。
てか、あっさりもなにもわたしが粘着してただけだったんだな。
ずっと風磨のことを考えていた時間がぽっかり抜けて、その余白をわたしはまだもてあます毎日で、何に対しても身が入らず、気づけば料理を焦がしていたり、財布を家に忘れたり、ドジばかりしている。
こんなに依存してたんだ、と自分で笑えてくる。
今日も会議で家を早くでないと行けないのをすっかり忘れていて、死にものぐるいで走って駅に向かう。
あ、ぎりぎり電車間に合いそう!!
ホームへの階段を一気に下ろうとしたその時。
世界が一回転した。
頭を3針縫い、全治2ヶ月の足の骨折。
頭を打ったこともあり、安静のため2週間ほどの入院。
階段から転げ落ちるなんで漫画みたーい、なんて冗談交じりに健人くんにメールしたら、“笑い事じゃないでしょ!下手したら死ぬとこだったんだよ!” と強めのお叱りを受けた。
ほんと、その通り過ぎて言い返せない。
そのあとに「あとでお見舞いに行くね」って付け加えてくれるところが彼の濃やかなところだ。
友人や会社の同僚によるお見舞いラッシュも1週間ほどでひと段落つき、あと1週間病院ひまだな〜〜なんて呑気にテレビを見ていると、コンコン、とドアをノックする音が聞こえた。
健人くんかな。
「どうぞ〜」
開かれたドアから現れたのは、風磨だった。
『久しぶり』
その声は、ぞっとするくらい冷たかった。
「え…………なんで」
『なんでって、入院してるって聞いたから見舞いにきたんだけど。悪かった?』
乱暴にドサっとベッド横の椅子に座る。
「わ、るくはない、けど………なんで、入院したなんて言ってないのに」
わたしの言葉を無視し、風磨は黙っている。
わけがわからず全く頭が働かない。
沈黙が怖くて、頭に浮かんだ言葉をそのまま口から押し出す。
「え、なんで、なんで風磨ここにいるの。なんで怒ってるの。なんで、」
バンッとサイドテーブルを叩く音によって、わたしの声は遮られた。
『なんでなんでうっせぇんだよ!!こっちこそわけわかんねーよ!しばらく連絡ねーと思ったらおまえこんなんなってるし、なんで一言も言わねぇんだよ!俺はおまえのなんなんだよ、彼氏だろうが!なんで中島からおまえが入院したって聞かなきゃなんねぇんだよ!心配する権利ぐらい1番にくれよ!』
今まで聞いたことのない風磨の大きな声。
こっちを睨みつけるような、激しい感情を宿した目。
あれ、風磨の顔こんなちゃんと見たのはいつぶりだっけ。
『……泣くのはずるくない?俺怒ってんだけど』
「え」
風磨に言われて、泣いてることに初めて気づいた。
「ごめっ……泣くの……やめっ…からっ……ちょっと…まっ…て…」
しゃくりをあげ途切れ途切れにしゃべるわたしを、苛立ったように風磨が抱き寄せる。
『………怒鳴ってごめん』
背中をさすってくれる手の優しさに、少しずつ動揺が収まっていく。
『怪我は、大丈夫なの』
「う、ん……へっ、いき………」
しゃくりが止まらず返す言葉が途切れ途切れになる。
声を詰まらせながら1番聞きたかった事を聞く。
「………っわたしって、風磨の、彼女、だったの?」
『おまえこれ以上俺を怒らせたいの?』
かなりムッとした風磨の声。
「………風磨って、わたしの彼氏のつもりで、いてくれたの?」
『正直、今回の件でかなりその自認は揺らいだけどな』
はぁと大きなため息をつき、頭をガシガシとかく。
『連絡途絶えるし、入院すら知らせてくんねぇし、なぜかそれを中島から聞くし、正直ここに来るの怖かったよ』
別れよって言われるんじゃないかって、とぼそりと呟いた。
「それは、わたしの方……わたしこそ風磨忙しいのわかってたけど、返事くれないって勝手に不安になって、もう彼女じゃなかったんじゃないかって」
『彼女だよ、まぎれもなく』
わたしの言葉を遮り、まっすぐこちらを見て風磨が言った。
『自覚してください、それは。この倒れそうになるくらいクソ忙しい中、俺を支えてたもん、何だったか教えようか?』
そうして見せられたのは、風磨のスマホのロック画面。
そこに写っていたのは、わたしがラインで風磨に送った「大好きだよ。おやすみ」の文字。
『おまえが送ってくれたラインを背景にして、毎日がんばろって呟くくらいには、俺はおまえに惚れてんだけど』
こっちを射抜くように見つめる目に、また涙が出てきた。
おまえこんな泣き虫だったっけ、と風磨が笑う。
「………じゃ返事くらい返せバカ」
『……疲れすぎてて、気抜いたら「会いたい」とか「愛してる」とかガラにもないこと送りそうでヤだったんだよ…』
「なんだそれ…おくってよ……」
『やだ、はずい』
ほんと、かっこつけでひねくれ屋でめんどくさい男。
でも、めんどくささではわたしたち案外お似合いなのかも。
ひとしきり風磨の腕の中で泣き、顔を上げると、わたしの涙で風磨のシャツが透けるくらいビショビショになっていて、それを見て2人で笑った。