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「てか〇〇さん、純粋に疑問なんですけど、その人とそんな仲良いのになんで付き合わないんですか?」
バイト先の更衣室でカフェの制服を脱ぎながら、サエちゃんは心底不思議そうに首を傾げた。
ひとつ年下のサエちゃんは、つい1ヶ月前にこのカフェに入ってきたばかりの新人だ。
黒髪で儚げな顔立ちの美人だから一見おしとやかそうに見えるけど、意外とあっけらかんとした喋り方をするから面白くて、仲良くなるのに時間はかからなかった。
「風磨さん?でしたっけ。こないだ写真見せてもらいましたけど、めーちゃくちゃイケメンじゃないですか。あんだけカッコよかったらタイプじゃなくても付き合っちゃいません?」
「あは、やっぱ見た目いいよね風磨」
「〇〇さんの美人っぷりにもあれなら釣り合うというか」
「まあ、お似合いなのは認めるわ」
わざとらしく髪をなびかせれば、サエちゃんは「〇〇さんのそういう謙遜しないとこ好きです」とケラケラ楽しげに笑った。
「まあ、たしかに風磨とは気が合うんだけど、なんていうか、気が合いすぎたの」
「? それっていいことじゃないですか」
純粋な目で疑問を投げかけられて、思わず苦笑いをする。
「いやだって、お互いのタイプとか歴代彼氏彼女だけとかならまだいいけど、気に入った子を持ち帰る手口とか、あと好きな体位まで知ってるんだよ?」
「体、位……っすか」
サエちゃんは黒目がちな大きな目をより大きく見開いてあんぐりと口を開ける。せっかくの儚げ美人が台無しで、笑いを堪えながら「サエちゃん、顔、顔」と指摘すれば、彼女は我に返ったようにパクンと口を閉じた。
「…ヤバイっすね」
「ね。そこまでいっちゃったら、もうどうやってもひっくり返らないっていうか。まあ、お互い恋愛相手には不自由してないしね」
笑いながら、するんと胸元のリボンを解いてシャツを脱ぐ。……例えば風磨は、こういう可愛いフリルがあしらわれた服よりも、もう少しギャルっぽくて強そうな服の方が好き。
そういう服を着た子が、脱ぐとき恥じらうギャップにグッとくる…と熱弁していたのは、いつだったか“どんなシチュのえっちが一番燃えるか”という議題で大激論したときだっけ。
今思えばずいぶんくだらない話題だけど、それでも終電を逃してファミレスで始発の時間を待つ間、話は一度も途切れなかった。
「……なんか、羨ましいです」
「え?」
サエちゃんはまとめた長い黒髪をほどきながら、小さくため息をついた。
「お互いがお互いをよくわかってるってカンジ。他の人が入り込めない関係性、みたいな」
「そんな大したもんじゃないけど」
「大したもんですよ」
間髪入れずに返された言葉に、思わず手を止めてサエちゃんの方を向く。
「〇〇さん、ちゃんとそれ自覚しなきゃダメですよ」
意外と鈍いんだから、とサエちゃんは呆れたような顔をして、へらりと笑った。
バイトが終わって家へ帰ってからも、気づけばサエちゃんの言葉を無意識に思い出していた。
自覚しなきゃダメですよ、ってどういう意味だろう。
尋ねる前にサエちゃんは「おつかれさまでーす」と出ていってしまったから、聞けなかったけれど。
ベッドに寝転びながらウンウンと考えていれば、ブブ、とスマホが揺れた。
[これ、どー思う?]
その一言の下には、ブランド物の白いミニウォレットの画像が貼られている。
[え、感動!ありがとう風磨!]
[いや今日も絶好調に図々しいな おまえへのじゃありませーん]
[そっちこそ今日も絶好調に失礼だな 財布は可愛いと思いまーす]
[ん だよねこの財布可愛いよね知ってる]
[うわウザ!]
[オレのセンスがいいことは自分でわかってんの]
[じゃあ聞かないでよ]
[オレの次にセンスいいのがおまえだから一応?笑]
[重ねてウザ!彼女へのプレゼント?]
[そー、来月誕生日だから]
[誕生日までに別れないように気をつけな]
[うるせー100年続くわばーか]
幼稚な詰りに思わず笑った。
100年続くって、こないだもその前も3ヶ月しないで別れてたくせに。
『やめとけって言ってたおまえの言葉きいとけばよかった』と、うなだれていた姿を思い出して、余計に笑ってしまう。
人のことはあんなに見えてるくせに、自分のこととなると途端に視界が曇るらしい。
そのくせわたしの忠告を全無視して決まってあとで後悔するんだから、強情にも程があるっていうか。
バイトの疲れか、うつらうつらと重くなっていくまぶたの裏に風磨が浮かぶ。
『それはお互い様だろ』と笑う顔に、夢現の中で「たしかに」と呟いた。