最終話
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サエちゃんに言われた店に大急ぎで向かう。
結局到着したのは、伝えられた開始時間を少し過ぎた頃で、店員さんにテーブルまで案内してもらった。
「あちらの席です」
遠目で見たときから、心臓がドクンと音を立てた。
「あ、サエの代理の方ですか?すみませんわざわざ。聞いてた通りすごい美人!」
「ありがとうございます、遅れてすみません」
「いえいえ。あ、じゃあこっちの席で、ついでに自己紹介も」
「あ、はい」
椅子に腰掛けると、トクトクトク、と鼓動はより早く鳴り始める。
「……××大学3年の〇〇です。よろしくお願いします」
軽く頭を下げれば、みんなが小さく拍手をしてくれた。
……ただ1人、目の前で仏頂面をする風磨を除いては。
話の流れから男性陣は全員風磨の知り合いということだったから、おそらくサエちゃんが風磨に頼んで企画した合コンだということは予想がついた。
……策士にも程がある、というか。
土俵に上がれ、と言われたものの、それがこんなにいきなりだとは全く思っていなかったから焦る。
さすがにここでは言えないし、じゃあ、帰り際に引き止める?今だってこんな気まずいのに?ていうか、ここでどう立ち振る舞えばいいんだろ。
「……ちゃん、〇〇ちゃん!」
「あ、はい!」
「あは、返事がいいね。ぼーっとしてたけど大丈夫?」
首を傾げて覗き込むこの人は……そうだ、風磨のゼミのOBで玩具会社に勤めてる人、だっけ。
「大丈夫です。心配かけちゃってごめんなさい」
「全然いいけど、〇〇ちゃんて見かけによらず結構おっとりしてるタイプ?」
「え、そんなことないですよ。結構休日とかアクティブですし」
「へえ、じゃあデートとかも遠出全然平気な人?」
「あ〜むしろ好きですね」
「お、じゃあ今度行く?車出すよオレ」
ふわ、と微笑まれて、条件反射で微笑み返してしまい、驚く。
仕草も会話の流れもスマートすぎて。
前までなら一発でこの人って決めてたはず、だけど。
「どこがいい?鎌倉とか、この時期だと秩父とかも綺麗かな」
「えっと…」
『やめたほういいっすよ先輩』
割って入った声に、思わず息をのんだ。
前を向くと、風磨はこちらを見ずにグラスを煽って。
『こいつ、人の車乗ると助手席ですぐ寝るから。時々かすかなイビキ付き』
「なっ…」
絶句しているわたしを、フンと小さく鼻で笑う。
『あーごめん、自分では気づかないよなあ?“途中で運転代わるから!”とか言って、出発してから到着まで毎度きもちよさそーに寝てるもんなあ?』
「ちっ、違うじゃん!起こしてって言っても毎回起こさない風磨が悪いんでしょ?!しかもイビキとかかいてないし!サイテー!」
『出たよ逆ギレ。あのときもサービスエリアで起こしてくれなかったから目当ての食べ物買えなかったってキレて、結局オレが買った肉まん奪って食い切ったよな?おまえ気をつけな?友だち失くすよ?』
「ちっさ!昔のこと掘り返してネチネチ言うとか器ちっさ!」
『うるせー!食べ物の恨みは怖えんだよ!』
あのときのあれが、このときのこれも。
ワーワーと言い合うわたしたちに、「はいストップ!」と仲裁の声が入る。
「迷惑になるから夫婦喧嘩はお店の外でやってください?」
気づけば、わたしたちのテーブル以外のお客さんもこちらを見ていて、なんだか生暖かい目で見送られ、2人とも店から放り出された。
外の空気を吸えば、さっきまでの熱も一気に冷める。
なんであんな幼稚な言い合いを…と、恥ずかしさで目を泳がせていれば、ぱちんと目線があった風磨も同じ表情をしていた。
『…残念だったな』
「…何が?」
『年上、スマート、ジェントルマン。…おまえが来るって思ってなかったから、なるべくスペック高い良い人たちばっか集めたのに。……なんで来るんだよ』
深いため息とともに、風磨は沈むようにしゃがみこむ。
頭を抱えた腕の隙間から小さく『……焦った』と声が聞こえた。
いつもわたしを悪戯っぽく見下ろす頭は、今は足元で小さく丸まってしまっている。
そっとしゃがんで手を伸ばすと、手のひらの中で、綺麗に染められた茶髪がくすぐったい。
「……自分は可愛い後輩たちとキャッキャしてたのに?」
『でも全然気にしてくんなかったじゃん』
「……内心すごい嫌だった」
『オレより合コン優先させてたくせに』
「それはだって……ごめん」
『………オレさ、年上になるのだけは無理だけど、わりとスマートでジェントルマンって好評よ?』
「ふふ、信じられないけどそうらしいね?」
『車だって出せるし……親のだけど』
「まあ、そこは目を瞑りましょう」
『あと、おまえを幸せにする自信も結構あるよ?』
風磨がゆっくりと顔を上げる。
『…それでも、友だちじゃなきゃダメ?』
頭に乗せた手の上に、風磨の手のひらが重なる。
絡めとられた指は、そのまま彼の口元に運ばれて、小さくキスを落とされた。
平熱が高い彼の手のひらは、やっぱり今日も熱い。
……高鳴る鼓動は、もうとっくに答えを知らせている。
「ダメじゃ、な、」
言い終わる前にぴとりと押しあてられた唇は、わたしの下唇を小さくついばむ。
『オレはちゃんと言ったのに?』
じっとこっちを見つめる風磨は、拗ねたように口角を下げる。
……あり得ないって、知りすぎてるからって思ってた。
だけど、何度も見たことがあるはずのその表情も、今じゃまるで違うふうに、とびきり可愛く見えてしまうから。
もっともっと、見たい。知りたい。
誰よりも、1番近くで。
「……もう友だちじゃ嫌。………風磨が好きだよ」
フッと緩んで満足気な弧を描いた唇。
今度はわたしから、口づけた。