彼はゲームがお上手
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『もぉ〜〜なんでこんな漢字多いの!』
シャーペンを投げ出して突っ伏した彼に、切り分けたケーキをフォークで与えれば、腕の隙間から顔を覗かせてパクリと食べた。
イチゴも、と唇を突き出してねだる彼に、はいはい、と所望されたイチゴを取って口まで持っていってあげる。
恋愛偏差値は誇張して中の中の下。
男性に対しての免疫がそれほど高くないわたしだけど、マリウスくんには、なぜか壁を感じないから不思議だ。
「もう1週間、十分頑張ったと思うよ?ここらで終わりにしない?」
『やだ!まだ全然だよ。AAの評価取りたいんだもん』
「AAって」
Aを取るだけでも優秀なのに、AAなんて、各授業で1〜2人しかとれない評価だ。
思わず、いやいや、と笑えば、彼はその白い頬を不満げに膨らました。
『あっ無理だと思ってるでしょう』
「いや、ねえ?だってAAだよ?」
『もう!そんなに言うんだったら、じゃあボクがAA取ったら、ボクと付き合ってよ』
突然の提案に、思わずコーヒーを吹き出しそうになるのを、すんでのところで堪えた。
売り言葉に買い言葉なんだろう。
カップ越しにちらりと窺えば、まったく顔色を変えていない彼に、大真面目に捉えて慌てて否定するのも恋愛初心者まるだしみたいで悔しい。
くそう、年下のくせに。
「いいよ、AAがとれたらね」
なんてことない軽口だと分かっていますよ、と先輩の余裕を示すように、口元に笑みを浮かべながらカップを置く。
「ま、減価償却がわかってないうちはAAなんてまだまだ遠そうだけど」
そう揶揄ってテキストをめくろうとした手は、ページに触れることなく、するりと小指を絡められて持ち上げられた。
『じゃあ約束ね』
繋がれた小指の向こうで、片眉を上げて笑う顔が見えて。
ゆーびきーりげーんまん、と歌うものだから、顔に一気に熱が集まった。
「ちょっとやめてよ、店の中だよ!」
『はいはーい』
パッと指を離して急に元に戻った彼は、『さ、やりますか』と呟いて、ノートに向かう。
慌てて解放された手を引っ込めれば、まだ小指には熱が残っていた。
このわけのわからない切り替えの早さには、いつまで経っても慣れない。
小指をテーブルの下で小さくさする。
ちらりと見上げれば、彼は下唇を突き出し、プリントとにらめっこしながら、前髪を無造作にかきあげて。
骨張った手首と長い指。そして、持ち上がったときに見えるおでこは、彼の纏う雰囲気を変える。
それは一瞬、大人の男の人のようで。
その仕草にも、まだ、慣れない。