シンデレラの行方
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息をつめ、一瞬、すべての音が耳から遠ざかる。
世界が、目の前のボードと、自分だけになる瞬間。
右手から放った矢は、弧を描いて的の中心に吸い込まれていった。
目の前には、ニヤニヤと笑う大学生くらいの若い2人組の客と、すがるような目でこちらを見るバカな友人2人の計4人。
「この人が、勝負に勝ったらオレらの今日分のドリンク代、全部タダにしてくれるって言ってたんだけど?」
「大口叩いてたのにあっさり負けてるし。友だちがここのダーツバーのバーテンだって聞いたんだけど、それってあんたのこと?」
へらへらと尋ねる声に、肩身狭そうに縮こまっている友人たちの方を睨めば、「「けんとぉ〜〜……」」と涙声で助けを求められる。
まったく、泣きたいのも助けてほしいのもこっちだっていうのに。
「オレら優しいから、バーテンさんともう一戦してもいいよ。オレらが負けたらちゃんとドリンク代払うし。そのかわり、こっちが勝ったらフードもタダにしてね」
「ダブルスだからバーテンさんはペア見つけてよ」
ニヤニヤと笑い続ける彼らには、勝算があるのだろう。
実際、カウンター越しに見ていた彼らのプレーは、かなりやり込んでいることが一目で見て取れたし、たぶん大会にも参加してるレベルのアマチュアだ。
最初は手を抜いてプレーして、実力を見誤って勝負を仕掛けてきた輩を食い物にしてるんだろう。
こういうダーツバー荒らしは、いつもなら店長と2人で勝負を受けて追い返しているけれど、あいにく店長は今日休みだ。
「ねえ健人、××がペアになったげよーか?」
上目遣いで腕を絡めてきたのは、いつもオレ目当てでここに来る常連の女の子。
腕に押し付けられるおっぱいも、ショートパンツから伸びたスラリとした脚も、とっても魅力的だけど、そういうセリフは自分のスコアを考えてから言おうね。
愛想笑いをしながらそっと腕を外し、周りを見渡してみても、今日に限って新規のお客さんが多くて、しかもたぶんほとんどが素人。
「バーテンさん、どうすんの〜」
「オレらの不戦勝ってことでもいいの?」
軽薄そうな声に、頭を抱えそうになったその時だった。
バーの入り口のドアが開いて、青い蝶がひらりと舞い込んだ。
青のレースドレスに、シルバーのハイヒール。
いつものラフな格好とは違う装いをしたその女性は、そろりと周りを見渡してオレを見つけると、口パクで「こんばんは」と言いながら、顔の横で小さく手を振った。
薄暗い部屋の中で、彼女のイヤリングが光を集めて揺れる。
救いの女神だ。
彼女の方に急いで駆け寄った。
『女神さま、いやプリンセス、ちょうどいいところに』
「プリンセスって、あ、これのこと? 似合う?」
ふわりと裾を広げて自慢げにドレスを見せようとする彼女の腕をとる。
『ピンチなんだ。助けて』
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