最終話
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ようやく涙が止まって、すんすんと鼻をすする。
泣き止んで冷静になってみると、静かなカフェで大泣きした事実と周りの目線がのしかかって、「ごめん、とりあえず外でよ」とそそくさと店をあとにした。
外はもうすっかり暗くなって、上弦の月が空にのぼっていた。
近くの公園のベンチに並んで腰かける。
泣きすぎて真っ赤になったわたしの目と鼻を見て風磨が笑う。
『ほんと、ものすごい勢いで泣いたな』
「……そりゃ、7年分だったから」
『ん、ごめんな』
あやすように、風磨がわたしの頭をわしゃわしゃと撫でる。
高校生の頃と変わらないクセと手つきに、また泣きそうになった。
「……さっき、さらうって言ったの、ほんと?」
嗚咽を無理やり抑えて震えた声に、風磨はわたしの頭を撫でながら柔らかく頷いた。
『ん、ほんと』
「今度こそ、ほんとに、わたしをさらってくれるの?」
『ん。今度こそほんと』
低く心地よい声が響く。
「……さらったあとは、どうするの?」
『さらったあとか』
風磨が目を細めて空を見上げる。
『なんでもいいよ。お前と一緒にいられるならきっとなんでもいいんだよ、オレは。……でも、とりあえずは、だるだるの部屋着きて、一緒にコンビニでかけて、ハイボールとつまみを買って、部屋で一緒に、どうでもいい話とか、今までの7年間とか、そんでこれからの話とか、ぐだぐだしながら夜が明けるまで話したい』
17のときより少し大人びた顔で、照れたように笑う彼に、堪えていた嗚咽はいとも簡単にまたこみ上げて、しゃくりをあげる。
結局わたしは、ずっとずっとずっと。
「寂しかった。悲しかった。苦しかった。何回も何回も思い出して、なんでなんでってそればっか思ってた…! 待ってた、待ってた待ってた待ってた待ってた!もう絶対置いてかないで……!」
堰が切れたように切れ切れになりながら声をだすわたしを、彼が包みこむように抱きしめる。
『うん、ごめんな。待っててくれて、ありがとう』
しばらくトントンと背中を心地よいリズムで叩いてくれたあと、親指でわたしの涙を拭うと、彼は前髪をかき分けそっと額に口づけた。
そのまま、腫れた両目に、濡れた両頬に、赤くなった鼻先に、そして最後にくちびるに。
彼の唇がやさしく触れる。
風磨が帰ってきたんだ。
7つのキスを数えて、やっとわたしは実感した。
『…これが、7年分。それで、これがこれからの分』
風磨はわたしの左手を取ると、そっと薬指にキスをする。
『未来のことなんてわかんないけど、それでも神さまの前で誓えるくらい好きだよ』
子どもみたいな顔で笑う風磨に、さっきの言葉を思い出す。
“あれがオレの青春だったって自信もって言える。”
さらさらの茶髪。マリオカート。屋台の焼きそば。場違いな浴衣。
交わることなんてないと思っていた青い春は、あの夏、たしかに重なっていた。
そして、それはきっと、これからまた。
月の光がやさしくわたしたちを照らす。
初夏の風に吹かれた葉は、再び重ねられた唇を隠すように、ふわりとさざ波を立てて揺れていった。