最終話
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どうやら、後輩のインタビュー相手というのが、イベント企画会社で働いている彼のことだったらしい。
たしか企画内容は「新進気鋭の若手クリエイター特集」だっけ。
彼は、依頼内容と会社情報を確認するうち、HPでわたしの名前を見つけ、そこがわたしの働いている会社だと知った、と言った。
そしてそんなことを知らず、意気揚々とインタビューに向かった素直な後輩は、彼に巧みにのせられて、わたしの近況や連絡先まで話してしまったらしかった。
やたらと言いづらそうにしていたのはこれだったのか、と時間差で腑に落ちた。
それにしたって、約900万人の人口を抱える東京で、まさかこんな偶然。
落ち着いたクラシックの流れる店内で、目の前に座る彼をそっと見上げる。
とりあえず近くのカフェに入ったのはいいものの、何を話せばいいか分からず、結局選んだのはあたりさわりのない言葉だった。
「……元気だった?」
『ん。そっちは?』
「うん。元気だったよ」
『そっか。…突然尋ねて、ごめん』
「や……でも連絡先知ってたなら、先にメールでもくれたらよかったのに」
『逃げられるの怖かったから。意外と臆病なんだよオレ』
フッと口角を緩めたその笑い方が、7年前と何1つ変わっていないことに動揺する。
記憶の蓋がぽっかり開いてしまう前に、焦って言葉を紡いだ。
「このカフェ、高校のとき入った喫茶店とちょっと似てるね。もう細かいとこは思い出せないけど、なんか雰囲気とか、クラシック流れてるとことか。わたしたちの格好もさ、お祭り行くわけでもないのに浴衣着て、でもあれはあれで思い出になったっていう…か……ね………」
勢いで乗り切ってしまおうとした言葉は、風磨の目線に、次第に尻すぼみになった。
綺麗な奥二重が、こちらを見つめて揺れる。
彼はゆっくりと口を開く。
『全部終わったことみたいに話すんだな』
「………だって、実際そうでしょう?」
テーブルの下でスカートの裾を握る。
わたしの声は今、震えていないだろうか。
7年前から変わらない。
この人には、どこか目に見えない吸引力があって、周りの人間は誰もそれに抵抗なんかできなかった。
だけど、今だけは耐えなければ。
深く、息を吸う。
「だって7年も経った。わたしたちは大人になった。だから、もう、終わったことなんだよ」
風磨は目をそらすことなく、数秒じっと射るようにわたしを見つめ、そしてふっと空気が抜けたように笑った。
『そっか、わかった』
いつのまにか強張っていた肩が、すとんと落ちた。
押し込めていた息を吐き出す。
ちゃんと言えた。これが正しい。
ぶり返したこの痛みも苦しさも、きっとまた時間が解決してくれる。
本当にそれでいいの?というように、首をかしげこちらを見つめる17歳のあの子も、きっと時がたてば消えていなくなる。
だってとっくに、7年前に終わった出来事だから。
「…それじゃ」
それ以上紡ぐ言葉が見つからず、立ち上がって伝票を持つ。
『待って』
その手を、柔らかく捕らえられた。
『…よくわかった。俺もそうする。終わらせる。だから終わりにするために、最後にすこし、話だけ聞いてくんない?』
触れられたところが熱をもつ。
そうだった。
彼はいつも前触れなく突然に、強引に、だけどまるで壊れ物に触るように、わたしに触れていたんだった。
こんなにも鮮明に、記憶は一瞬にして蘇る。
「……わかった」
ラーメンに誘われたときも、浴衣を着てきてとお願いされたときも。
7年経った今でも、結局わたしは、彼の言葉に逆らえない。