みんなでお花見

日曜日、大きな荷物を抱えて公園にやってきた珠紀たち。三月半ばの季封村はまだ少し肌寒く、雪も公園にはひと気もなかった。

「まだ三分咲きくらいですかね…。桜」
「ああ、だがこうして桜を見ることが出来て満足だ。ありがとう」

祐一は珠紀と美鶴そして守護者たちに向かって礼を言った。
「明日には季封村を出るんですよね…。寂しいです」
「そんなに寂しがることはない、珠紀。定期的に大蛇さんと連絡を取り合うつもりだ。それにまとまった休みには典薬寮から許可を取って帰るつもりでいる。」
「でも…」
珠紀は祐一とは半年も共に過ごしていない。しかし、珠紀にとってはとても色鮮やかなものだった。それだけに寂しさが募る。それは、珠紀以上に長い間共に過ごした守護者たちも同じであった。周りに暗い空気が立ち込める。

「だぁー!もうやめやめ!暗い顔なんてなし!」

そう言いながら真弘はレジャーシートを広げ、真ん中にドカッと座った。

「せっかくの花見なんだし、パァーと明るくいこうぜ!」
「真弘先輩…」

真弘の言葉によって辺りに張りつめていたどんよりとしたムードが一気に和やかな空気に包まれる。

「そうっすね。腹もへったし弁当を食いましょうか」
「僕はサンドイッチを作ってきました。フルーツサンドもありますからご一緒にどうぞ!」 
「私は様々なお茶をご用意しました。今準備しますね。」

真弘の言葉を筆頭に次々とレジャーシートに座ってお弁当が入った風呂敷を広げる。みんな顔はとてもにこやかだった。

(真弘先輩、自分が一番寂しいのに…皆を元気づけてすごいな…)

珠紀は真弘先輩の気遣いに感謝しつつ一緒にレジャーシートに座った。

「おい、赤頭。さっきからトマト全然食ってねぇじゃねーか」
「うるさい!トマト苦手なんだよ!大体お前こそ、そこのフルーツサンド食ってないだろ。もう最後の一個だぞ」
「フン、俺は甘い物が苦手なんだ。特に生クリームのニオイは鼻につく。別に食わなくても…」
「あっ!フルーツサンドは珠紀様も一緒に作ってくれたんですよ」
「なに!それなら…」
「食わねーなら俺が貰うぞ」
「おい!なにすんだ!」
「なんだよ!苦手な物食ってやったんじゃねーか!」
「食わないとは言ってないだろ!大体食ってやったとはなんだ!偉そうにしやがってこの頭単細胞が!!」
「んだと!この灰色頭が!!!」
「ちょっと二人とも!せっかくのお花見なんだから喧嘩はやめてったら!」
「さあさあ珠紀様!あんな二人はほうっておいて一緒に食べましょう。おかずたくさん盛ってきましたので是非召し上がってください」
「ありがとう、美鶴ちゃん。…そ、そんなに食べきれないかな…」

「犬戒君、お茶はいかがですか?」
「ありがとうございます。いただきます。…わあ!このお茶コクがあってとても味わい深いです。どういう種類のお茶なんですか?」
「よく聞いてくれました犬戒君!!この茶葉は京都の名店から取り寄せた物で普段は3年待ちの1級品なんですがこの間やっと手に入ったんですよ。この茶葉の特徴はなんといっても渋みが少なくコクのある旨みが…」
「バカ慎司!大蛇さんに茶の話振るな!!」
「ああなると2時間は喋り続ける」
「す、すみません、失念してました…。ど、どうしましょう?」
「とりあえず話終わるのを待つしかないな」
「はぁ〜大蛇さん説教もだけど茶の話も長えーんだよな…終わりがみえねぇ…」

―――騒がしいながらも宴は続き…―――

真弘が公民館で借りてきたコンポとマイクセットで守護者たち(ほぼ真弘の独断場)がカラオケ大会して盛り上がる最中、珠紀は少し休憩して立ちあがり公園の桜を眺めていた。

(まだ少ししか咲いてないけど綺麗だな…きっと満開になったらもっと華やかなんだろうな…都会にいた時はこうやってゆっくり桜を見る機会なかったから新鮮な気分。)
そんなことを考えながら眺めていると突然後ろから声をかけられた。

「珠紀」
「あっ拓磨。どうしたの?カラオケ参加しなくていいの?」
「流石にああ騒がしいのはな…それより珠紀、その…」
「うん?なあに?」
「そ、その桜が満開になったら花見に行かないか?…2人で」
「え!!」

突然の誘いに目を丸くする珠紀。そして拓磨は続ける。

「俺しか知らない桜のスポットがあるんだ。…少し山を登る事になるけど」
「うん行く!」

コンマ1秒もかかってない珠紀の返事を聞いて安心した拓磨は優しくふっと笑顔を見せた。

「そうか、良かった。じゃあ…」
「お~い!何やってんだお前ら!早く俺の歌を聞け〜」
「おい!誰かコイツなんとかしろ!もう10曲以上歌ってんぞ!!つーかどんだけあるんだそのクリスタルガイの曲!」

二人の会話は真弘の声とそれに困惑する遼の声に遮られた。

「流石に灰色頭が哀れになってきたな…俺たちもそろそろ戻るか」
「うん!そうだね!」

2人は笑顔を交わしながら宴の席に戻る。その手は他の守護者たちに見えないように優しく握らていた―――

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