夜の帳の中で

「うっ…、ここは…」
薄暗闇の中、目を覚ました拓磨。五瀬に撃たれた痛みに堪えながら上半身を起こし辺りを見渡す。そこは例の水車小屋だった。

(そうだ…俺…五瀬の短刀を壊した後気を失って…)

気を失う前の行動を思い出す拓磨。自分の身体をよく見ると包帯が巻かれていた。誰かが治療してくれたのだろうか。立ち上がろうとした時、水車小屋の扉が開く音がした。五瀬や薬師衆が来たのかと思い、拓磨は瞬時に身構える。

「おっ!目が覚めたのか。」
「よかった…全然目を覚まさなかったから心配したのよ。」

入ってきたのは五瀬によって人質にされていた拓磨のクラスメイト達だった。それぞれ腕に水や包帯を抱えていた。

「お前ら無事だったのか!よかった…怪我はないか?」

拓磨はクラスメイトの無事を確認し安堵する。クラスメイト達は拓磨に近づき水を渡した。

「平気。つーかお前自分の身体の心配しろよ。ほら水持ってきた。昨日から何も飲んでないだろ?」
「もう血は止まってると思うけど念のため包帯替えるね。後ろ向いてくれる?」

クラスメイトから差し出された水を飲み拓磨は少し心が落ち着いた。包帯を替えてもらい、その最中に語りかけた。

「…あの後五瀬がどうなったか知らないか?」
「五瀬か?わ、悪い。あそこから逃げるのとここにお前を運ぶのに必死であいつの事は知らないんだ…。」
「そうか…。いやいい」

(おそらく陽の鏡は五瀬が持っているのだろう。あの足じゃ遠くまで行っていない。陽の鏡を奪われたのは自分の責任だ。それより…)

「はい、包帯替えたよ…ってちょっと!!」

包帯を替え終わったと同時に拓磨は隣に畳んであった服を持ってフラフラと立ち上がった。

「おい!どこ行くんだよ?」
「…珠紀の呪いが解けたか確かめに行く。あの状況で五瀬が嘘を言ってるとは思わないがこの目で確認したい。それに…」

(それに日が暮れ始めたという事は凛がいや、オニの復活が近いのだろう。こんな所でウカウカする訳には…。)

水車小屋を出ようとする拓磨にクラスメイトが腕を掴み、必死の形相で止めた。

「無茶だ!お前大怪我してるんだぞ!!その怪我で動き回るなんて自殺行為だ!」
「そうよ!いくら怪我が早く治るからってもう少しここで休んでからの方がいいわ!!」
「だけど…!!」

静止を振り切って出ようとした時、クラスメイトがばつが悪いようにつぶやいた。

「…それに春日の所には今、田中が向かってる。」
「何!田中が!それは本当か?」
「ああ、ここに春日を連れてくるって…俺たちは止めたんだが…」
「…そうか」

その言葉を聞くとその場で立ち止まりしばらく逡巡したあと扉に踵を返し壁に向かって座り込んだ。

「いい、のか」
「ああ、珠紀がここに来るのなら動き回らない方がいい。それに確証がないけど田中なら大丈夫だと思う。」

(あの時死を覚悟して田中の前に立った時、田中は憎くて仕方がない俺じゃなくて五瀬の脚を撃ち抜いた。あいつが俺に見せたあの涙は嘘じゃない)
(それに珠紀なら心配ない。あいつなら今の田中でも仲良くやっていける----。そんな気がする--)

「俺は田中をそして珠紀を信じるよ」

そう決心し、にこやかに話す拓磨。それを聴いたクラスメイトは軽く頷いた。

「…分かった。それじゃ俺たちもう出るよ。五瀬や薬師衆にここを嗅ぎつかれるとまずいからな」
「他の村人たちもバラバラに避難してるの。ちゃんと連絡取り合ってるから安心して。今はここでゆっくり休んでね」

そう言って水車小屋をあとにするクラスメイトを拓磨は「待ってくれ」と声をかけた。

「なんだ?」
「…怖い思いさせて悪かった。…辛かったろ?」

クラスメイト達はそれを聞いて軽く手を挙げ微笑みながら水車小屋を出ていった。その表情には以前のような憎しみの感情が消えていたようだった。拓磨はそれに安堵し深く息を吐き壁にもたれかかった。そして珠紀への思いをはせる。

(珠紀、身体は平気か?呪いは解けたか?まさかまたお前と生きて会えるとは思えなかった)
(早く会いたい。早く抱きしめたい。早く珠紀に…ダメだ、欲張りになっちまう。)

頭の中は珠紀の事でいっぱいだった。生きて珠紀に会いたい。ただそれだけを ------------

そう願う彼を格子状の窓から出たわずかな月明かりが優しく照らしていた。










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