守護者定例会議

ここはとある日の大蛇家。拓磨を除く守護者達が神妙な面持ちで集まっていた。それぞれ机を囲むように向かいあって座っている。その中心に卓が座る。

「さて、皆さんに集まってもらったのは他でもありません。…して鬼崎君は?」
「拓磨先輩なら多分珠紀先輩とデートです。さっきウキウキ気分でスキップしながら宇賀谷家に向かっているのを見かけましたから」
「なにー!拓磨の奴!生意気な!」
「…なるほど。元より誘うつもりはありませんでしたが今日一日はここには来ませんね。好都合です」

そして眼鏡を怪しげにキラリと光らせながら机に両肘を置いて寄りかかり口元を隠していつになく真剣な口調で話し始めた。

「それでは月に一度の守護者定例会議を始めます。議題はもちろん『鬼崎君が振られたら次に誰が珠紀さんの恋人になるか?』です」

「ちょっと待てよ!大蛇さん!」
「なんでしょう?鴉鳥君?」
「拓磨が振られるのは確定だしどうでもいいけどよ、珠紀の次の彼氏になるのにこうやって話し合うのは性に合わねぇつーか、男ならすぐさま行動すべし!ということで早いもの勝ちてことで…」
「言ったはずだぞ、真弘」

真弘の言い分を言い終わらない内に祐一は一蹴した。

「あの不器用で口下手でデリカシーの欠片もない拓磨が振られるのは間違いないだろうがその後の珠紀の恋人に立候補する時に抜け駆けはしないように公平を期すためこうやって話し合いの場を設けると事前に言ったはずだ」
「そうですよ。それに珠紀先輩の恋に疲れた心のケアもしなければなりませんから」

その言葉に不満を抱きつつも渋々引き下がる真弘。

「しかし狗谷君、君まで参加するとは…」
「俺にとっては重要な事だからな。あの赤頭に珠紀を取られたままでたまるか」
「まあ人数多い方が話し合いしやすいですが…」
「チクショー!!俺達がこうして真剣に話し合いしてるってのに拓磨の野郎!呑気に珠紀とデートしやがって!」
「フン。いっその事そのままフラれてしまえ」
「それについては僕も同意です」
「右に同じく」
「皆さん、気持ちは分かりますがそういうことは言葉にだすのではなく、心の中で呪…いえ祈るだけにして下さい」

守護者達が拓磨に対する恨みつらみを語っていた頃――――

「ハックション!」
「あれ?拓磨、風邪?」 
「いや、そういうわけではないんだが…」
「また夜遅くまでクロスワードしてたんでしょ?」
「い、いや、違う。その、き、昨日は楽しみ過ぎて寝られなかったというか…」
「拓磨…。私もだよ…」

拓磨は珠紀と仲良くデートをしていた。

所変わって大蛇家――――

「さて話を元に戻しますが、珠紀さんの次の恋人にここは年功序列ということで私が」

卓のその言葉に皆一斉に不満の声が上がる。

「はぁ!なんだよそれ!俺達が不利じゃねーか!」
「せっかく公平を期すために話しあってるのに意味無いじゃないですか!」
「普段お年寄り扱いすると怒るのにこういう時だけ年長者ぶるのはいかがなものだろうか」
「ったく、これだから少し年長者の大人ってのはすぐ偉そうにしやがる」

皆の顰蹙を買い、「そうですか…」と引き下がる卓。

「それによー頼りがいのある年上ならここにいるじゃねーか」
「えっ?どこにですか?」
「目の前に!いるだろ!守護者で一番かっこよくてみんなから慕われてまとめ役としてリーダーシップもあるこのナイスガイな俺様が!」
「よく自分のことそこまで褒めちぎれますね…」   
「ある意味尊敬します」 
「よくもまぁチビのくせにあんなに威張れるもんだ」
「すー…」
「お前ら…覚えとけよ…。あと祐一!寝るんじゃねー!!」
「む。すまない、あまりにもつまらない主張で眠ってしまった」
「祐一ぃ!テメーーー!!」 
「まあまあ鴉鳥君落ち着いて…。しかしこのままでは平行線ですね」

真弘の怒りをなんとかおさめつつ卓が次の話題を切り出した。

「ここは趣味で珠紀さんの心を射止めるというのはどうでしょう?」
「それだったら僕が!料理だったら珠紀先輩と一緒にしますし、僕も教えたりしますから」

そして勝ち誇った顔で守護者たちを見る。
「な、なんだよ料理なら俺も…」
「真弘先輩のは料理とは言いません!」
「それなら私もよく珠紀さんとお茶を嗜みますよ。紅茶やハーブティーをあんなに楽しそうに飲んでくださる方は村にはいませんでしたから。この前ついお紅茶一式をプレゼントしてしまいました」
「な、なに!いつの間に…」
「お茶の作法もよく教えていますよ」

悔しそうにする守護者たちを前にして大人の余裕を見せる卓。

「ぼ、僕だって珠紀先輩にキッチン家具をプレゼントしたことがありますから!」
「俺だってな!バイクの話すると珠紀がスゴい嬉しそうな顔で聞いてくれるぞ!」 
「そういえば前に珠紀が村でオススメのお昼寝スポット聞いてきたな…玉依姫の修行で疲れた時に使いたいと言ってそれで盛り上がった事がある」

チラりと遼を見やる守護者たち。話を催促しているようだ。

「俺は…趣味なんてものは無い」
「おー、そういやお前趣味と呼ばれるもの持って無かったな〜」
「娯楽が無いこの村でよくやってこれたものだ」 
「話はよくするし別にいいだろ!」
「狗谷先輩、嫉妬ですか?」
「うるさい!大体趣味なんかなくたって生きていけるだろ!」
「さみしい人生だな」
「損してますね」
「そんなに言うなら趣味作ってやるよ。そうだな…、珠紀の匂いを嗅ぐっていうのはどうだ?」

その発言に周りの空気が凍りつき守護者一同ドン引きする。

「お前、流石にそれは変態だろ」
「よくそんな事堂々と言えるな」
「珠紀先輩の前でその言葉二度と口にしないで下さいね!」 
「趣味を作ると言った時点で嫌な予感はしていましたが…」

守護者一同に軽蔑の目を向けられフンと鼻を鳴らした。

「チッ…。分かったよ。ただ趣味の話は却下だ。俺が不利だ」
「おや困りましたね。話がふりだしに戻ってしまいました」
「なー本当にこんなことする必要あんのか?話が進まねーんだけど」
「真弘、言ったろ。公平を期すために…」
「そんな事はわーてるって!大体まどろっこしいんだよ!こうなりゃ拓磨に奇襲仕掛けてでも珠紀の隣に…」
「おう、手伝うぜ鴉鳥」
「いけません!二人共!以前それをしようとして言蔵さんに大目玉を食らったのお忘れですか!気持ちは分かりますが焦ってはいけません」
「そうだぞ二人共、俺達も同じ気持ちだ。まずはゆっくり話し合うべきだ」 
「そうですよチャンスはもうすぐ来ます。落ち着いて珠紀先輩の事も考えるべきです」

二人を宥め、会議を再開する守護者たち。その心は誰が珠紀の隣に相応しいかただそれだけだった。

(いっそ守護者全員で奇襲を…)
守護者たちが拓磨の殺意で心が一つになった頃…

「………………(ビクッ」
「た、拓磨どうしたの?すごく震えてたけど…」
「い、いやなんかものすごい悪寒が…」
「拓磨本当に大丈夫?もう帰った方がいいんじゃ…」
「大丈夫だ、熱もない。…まだお前と一緒にいたい。ダメか?」
「拓磨…ううん、ダメじゃないよ…私も一緒にいたい」
 二人はさらに愛を深めていた…。

 また変わって大蛇家―――――――――――
「さて、次のテーマは珠紀さんといかに話を盛り上げるかですが…」
「なあ、こういうのはやっぱり年齢の近いやつが話を合わせやすいんじゃないか?」
「年齢の近い人、ですか…」

遼の発した言葉に眉をぴくりと動かし怪訝そうな顔をする卓。

「お〜言えてんなー狗谷、たまには良いこと言うじゃねーか」
「たしかに珠紀は俺達といる時の方がよく喋っているな」
「学校の屋上でも楽しそうに話しますしね」
和気あいあいと盛り上がる学生組。

「つまり私では珠紀さんとは不釣り合いだと?」
「そういうわけじゃねーけど…なぁ?」
「正直珠紀とは年が離れすぎているのではないか?」
「僕たちとアリア様くらい離れてますしね」
「ハッ!つまりロリコンか」

その発言が起点となったのか卓は机に手をつき徐ろに立ち上がった。

「そうですか…皆さんがそう言うなら私にも考えがあります」

そして「あまりこの手は使いたくなかったのですが…」と呟いて部屋を出ていってしまった。

「フン、敵前逃亡か」
「お、怒らせてしまいましたか…?」
「いーや大蛇さんはこんなことで怒らないだろ」
「何か考えがあると言っていたが…一体何をするつもりだ?」

残された守護者たちがひそひそと話し合っていた頃、襖が開ける音が聞こえた。

「あ!よかった。戻ってきたみたい…ヒィィ!」

戻ってきた卓を見た慎司が思わず恐怖の声があがった。

「いや〜久々に着てみましたがなかなか良いものですね。身も心も若返った気分です。少々キツイですが」

そこには紅陵学院の制服を着て爽やかな笑顔で立つ卓がいた。

「お、おおおお大蛇さん?その格好は一体…?」
「みなさんが年齢が近い方が珠紀さんと話が合いやすいと言いますからせっかくですし制服を着てみたんです。どうですか?私もまだまだ若いんですよ?」
「いやいやいや!おかしいだろ!なんで制服着るという発想になるんだよ!」
「流石に無理がないか?」
「つーかなんで10年前に着てた制服綺麗にとってんだ」
「そもそもなんで恥ずかしげもなく着てるんですか!しかも爽やかな顔で!僕はそれが恐ろしいですよ!」
「いや〜本当に懐かしいですね~生徒会長をやっていた学生時代に戻った気分ですよ」

守護者達の総ツッコミを大人の余裕(?)で華麗にスルーし話を進める卓。

「では珠紀さんの隣は誰が相応しいか、ですが」
「まだ続けるのかよ!」
「何言ってるんですか、心機一転して着替えたんですからまだまだこれからですよ」
「あ、あの、ぼ、僕、実は犬戒家の大事な用があって今すぐ家に帰らないと行けないんです…」

卓の制服姿に終始怯えていた慎司が弱々しく手を挙げた。その様子を察したのか他の守護者達も乗っかり始めた。

「そ、そうだ!大蛇さん!俺も急用を思い出しちまった!早く家に帰らないとだな〜」
「俺も母さんの様子が心配だからな」
「俺も早く帰らなければ…すまないが大蛇さん、今日はここでお開きに…」
「おやそうですか、残念です。せっかくノッてきた所でしたが…仕方ありませんね。定例会議はまた次の機会に…。この格好はまた次回にも着ましょうかね」

守護者一同(勘弁してくれ!)と心の中でツッコんだ所で今日の定例会議はお開きとなった。
なお次の定例会議も荒れに荒れたのは言うまでもない…
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