【PET!番外編①】迷惑メイドたまき

「……椋ちゃんも学校ぜんぜん来ないし、そこまでケガ酷かったのかって……」

 徐々に語尾が弱まる。瑛知からは顔は見えないが、環は珍しく、いつものワガママで偉そうな態度ではなかった。

「そ、そのケガ……俺のせいでしょ? だから気になって、今日来てみたんだ」

 しずかな口調でつぶやく環。その後数秒無言になるが、突然環が勢いよく起き上がる。

「俺の責任だと思ったから見に来ただけだから!ほんとはバカ瑛知なんか見たくなかったけど、司狼も心配してたし……!」
「えっ、いや、俺なにも言ってないけど……」
「……!!!」

 結局のところ、環は瑛知が学校に来ないことが心配で、寂しかったようだった。あの事件以来、環は瑛知に心を許しているようだ。

 瑛知は数日前のことを思い出した。

 椋が突然帰ってこなくなり、広い屋敷に取り残されたときの、あのひどい孤独感。
 たった一人の肉親の父親はもういない。大嫌いだが、椋すらもいない広い広い屋敷。
 独りになったのだと、寂しくて怖くて仕方がなかった。
 自分が寂しいと感じているときに、自分がいなくて寂しいと感じてくれる人がいる。
 それがすごく嬉しくてたまらなかった。

「……まぁ、たまにはソファじゃなく広いベッドで寝るのも、良いよな……。シロ先輩一人だけ別ってのも、なんかやだし」
「……!」

 瑛知が少し視線を外して、照れて言いにくそうに口ごもりながら言うと、環が目を輝かせて瑛知を見上げた。とてもわかりやすい性格である。

(……まぁ、あのことは極力思い出さないようにがんばるか)

 環の気持ちが嬉しくて、瑛知は今日だけ椋のベッドで寝ることにしたのだ。

「じゃあ三人で寝よ!俺は別にどっちでも良いんだけど、やっぱり人多いほうが暖かいしね」
「はいはい、暖かいしな」

 喜ぶ気持ちを隠せない環に腕を引っ張られ、すでに司狼がぐっすり寝てる大きなベッドへ向かった。



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