【PET!番外編①】迷惑メイドたまき

「……!……え、瑛知」

 瑛知に気付くと環は驚き、顔を曇らせて瑛知から目を反らす。

「お、俺……もううるさくしないし……瑛知はゆっくりお風呂入れば……?」
「……お前は風呂、どうすんの?」
「え!? ……俺は、あとで……」

 まだ瑛知が怒っていると思っている環は、瑛知の様子を伺うように見ながら返答に困っている。その様子の環を、瑛知はつい面白くて吹き出してしまった。

「んなっ……なに笑ってんの!?」
「なに、ほんとにビビってんだよ? もう怒ってないよ。さっき、怒鳴ってごめんな」

 きょとんとした表情の環の頭を軽く叩いて、瑛知は笑いながら脱衣所のほうに戻ろうと振り返った。

「……椋の部屋の風呂、すごい広いよな。あれなら三人くらい、余裕で一緒に入れるけど」
「……!」

 瑛知の言葉に、環は曇っていた表情を一気に明るくさせた。
 今回のことは本当に迷惑だったけど、瑛知は嫌な気にはならなかった。
 どんな形であれ、環も司狼も自分のために一生懸命になってくれたのだから。

「し……仕方ない。瑛知がどうしても寂しいって言ってきかないから、一緒に入ってあげるね」
「……瑛知……そうなんか。……今度から俺や環、来られへんとき……椋に、一緒にお風呂入ってやってくれへんかって、お願いしといてやるな……?」
「…………それはマジでやめてください」

 瑛知の顔がいつになく必死だったのは、言うまでもない。





 夜もふけてきたころ、部屋でのんびりしていた瑛知たちだが、環があくびをしながら椅子から立ち上がった。

「俺、そろそろ寝るね。眠くなってきた」
「んー、俺も寝よっかな。先輩は?」

 瑛知の問いに、司狼は眠そうにこくりとうなずく。瑛知は部屋を一通り見回したあと、椋のベッドに目を付けた。

「椋のベッド、デカいし、環とシロ先輩はそこで寝れば良いよな。椋はまだ帰ってこないし、帰ってきても三人ぐらい余裕だろ」
「…………」

 瑛知がそう言うと、司狼が無言でうなずいてベッドに向かう。そのまま倒れるようにベッドに横たわってしまった。

「せ、先輩……相当眠かったみたいだな」
「司狼はもう寝る時間だし。そいえば瑛知はどこで寝るの?」

 司狼が持ってきていたバッグから大きな枕を取り出し、環は眠る司狼の顔の前に見せる。すると司狼は目を閉じたまま、それを受け取って抱きしめるようにしながら眠りはじめた。

「え、俺? いつも通りソファで寝るけど」

 瑛知が何気なく答えると、環がまばたきをして不思議そうに聞いた。

「椋ちゃんのベッドに寝ないの?」
「いやいや、さすがに四人だと窮屈だろ? 椋もシロ先輩もでかいし。それに……」

 椋のベッドに寝るのは嫌だ、と言いそうになって、瑛知は口をつぐんだ。椋のベッドには、嫌な思い出と恥ずかしい思い出しかない。



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