【PET!番外編①】迷惑メイドたまき


「じゃ、まずは動けず暇している瑛知と、遊んであげるね」

 ソファに瑛知と司狼を座らせると、環は持ってきたバッグを開いて中のものを探しはじめた。

「……や、俺もう動けるんですけど……」
「無理したらだめでしょ。今日は中で遊ぶからね」
「遊ぶのは前提なんだ!?」

 机の上にいろんなものを出し、環は唸りながら悩み出した。

「なにが良いかな……ねえ、庶民ってどんな遊びが好きなの? 一応スマホや雑誌で勉強して、いろいろ取り寄せてみたんだけど」
「お前いつでも一生懸命に失礼だな!? ……まあ庶民ですけど、中で遊ぶんなら普通にゲームとかじゃないの?」
「そうなの!? けん玉は!?」
「……いつの時代の遊びを調べたんだお前」

 環が持ってきたものは、ほとんどが時代を感じさせるものばかりだ。瑛知も、小学校の頃に使い方を社会の授業で習った覚えがある程度の知識しかなかった。

 机に並べられた昔の玩具を見ていた司狼は、無言で小さく平べったい硝子玉を取り上げ、不思議そうに眺めた。

「…………飴……?」
「先輩、食べちゃだめだよ!? それは、おはじきだよ。たしか……こうやって指で弾いて、ほかの硝子玉にぶつけたら自分のものに出来るんだったかな」

 瑛知が机の上でおはじきを弾いて見せる。初めて触ったにしては上手に弾けている。司狼と環が興味深げに見入った。

「へぇ~、瑛知すごいね。こっちは? こう使うの?」
「いやちがうだろ!そう使うんじゃなくて、こう……あっ!先輩それはちがっ……待った!そうでもないって!!」

 不本意ながらも瑛知は環と司狼相手に、昔の遊び講座をはじめた。しかし、勝手な行動を取りまくる二人のおかげで、夕方頃にはすっかり憔悴し切った状態になってしまった。

「く、くそー……椋のやつ、一切帰ってこねぇ……」

 心身ともに疲れた瑛知は、ソファの上で寝転がりながら、二人を押し付けて会社に行った椋を恨んで深い溜め息を吐いた。

「んー……お腹空いてきたね。そろそろご飯作ってあげるね」

 床に玩具を広げて司狼と遊んでいた環が立ち上がり、着ていたメイド服のしわを直した。はいはい、と適当に横になりながら返事をした瑛知だったが、少し疑問に思って環に聞いた。

「ところで、環は料理出来るのか?」
「うん、出来るよ」
「そうなのか!? なんか意外だな……先輩は?」
「あぁ……調理実習なら。……俺、いつも味見担当で「上手」言われるんや……」

 つまり、司狼はやったことすらないのである。

「先輩、それは料理が出来るとは言わないよ!? しかも明らかに周りに甘やかされすぎだろ!」
「そうなん……? ……「味見も大切な係」やでって……みんな言うてくれるんやけど」
「いやいや!そうかもしれないけど、味見担当だけじゃ料理したことにはならないからね!?」
「え……!?」

 瑛知の必死の突っ込みに反応したのは、青い顔をした環だった。

「ま……まさか環、お前も……」
「い……いや!俺は料理したことあるし!包丁さばきがすごいって言われてるからね!司狼、厨房行こ厨房!」

 そう言って環は、司狼を引っ張って椋の部屋から出ていった。

(ふ、不安すぎる……)

 少しのあいだほっとこうとも思ったが、持ち前の世話焼きの性格が災いし、瑛知は気になって様子を見に行こうと部屋を出ようとした。


3/9ページ
スキ