【PET!番外編①】迷惑メイドたまき


「せ、先輩」
「……ごめんな」
「わかっているなら、環に本当のことを……」
「俺のサイズ……無うて、これしか着て来られへんかった」
「…………」

 司狼も流星の話通りメイド服を着て来ようと思ったらしいが、背が大きい司狼に合うサイズが無かった為、あきらめてこの衣装を着てきたらしい。

「りょ、椋……」

 自分ではどうにも出来ないと思ったのか、瑛知は動じずにパソコンで仕事をしている椋に助けを求める。

 椋は仕事をしている最中にうるさくされると、いつも外に追い出す。きっと今回もうるさい環を追い出し、椋の言うことだけは素直に聞く環は、すぐあきらめて帰ってくれると思ったのだろう。

「椋ちゃん、今日俺と司狼、泊まってもいい?」
「好きにしろ」
「…………。ん!?」

 思いも寄らない反応を椋が返したため、瑛知は耳を疑った。

「ど、どうしたんだお前!?」
「今から会社に行ってくる。そいつの面倒は環に任せる」
「うん!わかった、椋ちゃん任せて!」

 鞄にノートパソコンや書類を入れ、椋は椅子から立ち上がる。椋の任せるといった言葉に環は目を輝かせた。
 椋はそのまま、さっさと部屋から出ていってしまった。

 つまり椋は、めんどくさい環たちの相手を瑛知にやらせるために、環たちの泊まりを了承したのだ。

(あ…あのヤロ――ッッ!!!)

 椋の思惑=嫌がらせに気付いた瑛知は、引きつった顔で椋が出ていった入り口を睨んだ。

「寝るところは、椋ちゃんの部屋でいいよね。司狼、枕は持ってきた?」
「…………ん」
「ってコラコラコラ!!!」

 司狼が肩に掛けていたバッグから大きな自分専用枕を取り出しはじめた。たぶん持ち物は、それのみだ。

「なに? 枕、だめなの? 司狼はこれじゃなきゃ夜は熟睡できないんだから許してよ」
「枕がどーのじゃなくて、泊まりはだめだって!」
「なんで? 椋ちゃん、良いって言ってたよ」
「だから、俺は治ったばっかりで疲れやすくて……」
「……瑛知」

 環たちを追い返そうと必死な瑛知のとなりで、司狼が瑛知の名前を呼んだ。

「し、シロ先輩?」
「……俺たちが泊まるの、嫌なん……?」

 背の大きい司狼が、しゅんと寂しそうな顔で瑛知を見下ろした。見るからに、悲しい顔をして尻尾を垂らしている大型犬である。

「うっ…」

 瑛知は司狼のこういうところに、とても弱い。

「嫌なら、仕方あらへん……」
「い、いや、あの……」
「鬼瑛知!司狼、すっごい楽しみにしてたんだよ!昨日徹夜で、瑛知のための看病プラン一緒に考えたのに!」
「え……!? いや、俺は……」
「……環…瑛知を困らすの悪いし……」
「……そうだね、司狼。瑛知なんか忘れて、遊びに行こ。瑛知なんか忘れてさ」

 本気でしょんぼりしている司狼の腕を引っ張って、環がニヤニヤしながら瑛知を見つつ部屋から出ようとした。確信犯である。

「あ~~~もうっっ!!わかったよ!!いーよ泊まれよ大歓迎っ!!!」
「ほんとっ瑛知!? やった♪」

 こうなることを見越していた環は、「してやったり」な顔で瑛知に抱き付いた。

(くそー……環のやつ、このためも含めてシロ先輩連れてきたな……)

「……瑛知。ありがとな」

 表情は変わらずに、司狼は瑛知の頭を大きな手で撫でた。司狼の口元には少しだけ笑みが浮かんでおり、本当にうれしそうだ。瑛知はなにも言えなくなり、おとなしく撫でられる。

 今日明日はゆっくり出来ないことを覚悟する、瑛知だった。




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