【PET!番外編①】迷惑メイドたまき


 それは突然、やってきた。



 環暴行事件から二週間。全治二週間と言われた瑛知のケガもようやく治り、明後日から学校に行けるだろうと医者に言われていた頃だった。
 休日のはずの日曜日に関わらず、忙しそうにパソコンに向かっている椋の部屋のソファで、瑛知は居眠りをしていた。

「ご……ご主人様。お友達がいらっしゃっております……」

 ノックのあと、メイドの戸惑った声が続いた。その声に目が覚めた瑛知が、まぶたをこすりながら起き上がった。

「友達……? 椋の友達……って」

 椋に出会って約一ヶ月。椋が人に『友達』と呼べる態度を取っているところを見たことがない。辛うじて『友達』と呼べる存在と言えば、生徒会―――クロカイのメンバーだろう。その証拠に、椋は彼らだけには自分の屋敷への出入りを許していた。

「……入れていい」
「は、はい」

 椋がパソコンを見ながら適当に言うと、廊下の奥から走る音がしてきた。その足音に、瑛知はだれが来たのかわかってしまう。

「環だ。もうケガ、治ったのかな……」

 瑛知がつぶやいている最中に、椋の部屋のドアが勢い良く開いた。

「椋ちゃん、瑛知!」

 瑛知がドアの方を振り向いたと同時に、沈黙が部屋を駆け巡る。

「………………え、えーと、その格好は?」

 ようやく瑛知が、異様な格好で登場した環に疑問の声をかけた。

「? どこか変?」

 環はわかっていないようだが、その格好はとても異様だった。なぜなら環が着ていたのは、

「……なんでメイド服?」

 そう。黒のフワフワワンピースに、白の襟とエプロン。白いストッキングに、黒のシックな靴。ワンピースにはフリルが華やかにあしらわれており、かなりシンプルなメイド服である久遠寺家のメイドよりも目立つ衣装で、しかも着ているのが男。

 環は背格好こそ俺と同じくらいだが、顔立ちが可愛らしいので、その衣装が似合っているところがさらに異様である。

「なんで、って。俺、ケガして動けない瑛知の看病に来たの」
「いやいや、もう治ったし!つか、なんでその格好!?」
「……? 星ちゃんが、看病しに行くときは最近、この格好が流行っているって」

 どうやら流星がいたずらに適当なことを環に吹き込んだらしい。世間知らずで日本暮らしの経験が乏しいらしい環は、たまにかんちがいする傾向がある。今回も流星の嘘を鵜呑みにしてこんな格好をしてきたのだ。流星を疑っていない環は、不思議そうにスカートのすそを両手で持ち上げる。

「ね、司狼」
「えっ!!?」

 遅れて部屋に入ってきた司狼が、いつものぼんやり顔で軽くうなずいた。どうやら環に誘われて一緒についてきたらしい。

 環が信じ込んでいる流星の嘘を真に受けて、どんな格好をしてきたのか心配だった瑛知は驚いて振り向く。しかし、司狼は予想に反して執事のような格好をしていた。背が高く手足も長い司狼はシックな黒の衣装を着こなしており、様になっている。ネクタイは少し曲がっているが、それが司狼らしい。


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