〜白薔薇の君〜
「ラントとフェンデルの国境紛争は激しくなる一方で、お父様は対応に苦慮しています。本格的な戦いに発展する前に、戻ってきてはくれませんか…、…いつの間にこんな事に」
実地任務へ向かった後、寮に届いたという母親からの手紙を読んだアスベルは悲しそうに眉を寄せる。
そんなアスベルの後ろ姿に私はなんだが可哀想に思えた。
…だが何故、無関係なアレックスまでもこの場にいるかと言うと、マリク教官の「アレックスも来てくれ」という一言により、今彼の教官室にいたのである。…ものすごく単純明快だ。
『(講習…もう始まってるだろうな…)』
さっきチャイムが鳴っていたので、今駆け込んでも欠席扱いだろうな、と深刻な話をしている人達を横目に、関係のない事を考えているアレックスであった…。
「返事が無いまま、アストン様は戦死され…、ケリー様も憔悴して寝込んでしまわれたの。それで私が王都に…」
抑揚のない声でシェリアは今までのラントでの話を語った。
どれもが驚きの内容ばかり。そして全て悲しい話。
話を聞いていると、ケリー様というのはどうやらアスベルの母親らしく、そしてシェリアは彼の幼なじみで執事の孫娘なんだとか。
悲しみをこらえ、気を引き締めたシェリアはマリク教官に一通の書簡を差し出した。
「マリク教官、騎士団宛てに親書をお預かりしたので受け取っていただけますか?どうかラントに国王陛下直々の騎士団のご助力を」
縋るような思いで差し出された書簡を受け取らない人はいないだろう。無論、マリク教官もその内の1人だ。
だが親書を受け取ったものの、その表情はあまり良いとは言えないだろう。
「ウィンドル王国は他国に比べて、伝統的な貴族領の自治権が強く、各々が半独立国のようなものだ。たとえ中央の騎士団と言えども、簡単には介入出来ない仕組みになっている。できれば力を貸したいのだが…」
「実は祖父からもそういった話は聞かされてはいました。結局私たちにできるのは、戦争にならないよう祈る事だけなのかもしれません」
「確約は出来ないが騎士団に掛け合ってみよう。事が事だけに放ってはおけん。情報がキチンと伝わっているか、その事も調べてみる」
「…ありがとうございます、教官。」
礼儀正しくシェリアは頭を下げた。
なんだが難しい話に展開してしまっている。…というか、私がここにいる意味はあるのだろうか、とさっきとは全く違うことを考えて始めたアレックス。もはや、エアー状態だ。
そんな時だ。マリク教官に呼ばれたのは。
「アレックス、」
『…、…!?は、はい!』
い、いかん!ぼーっとしてた。
「お前からもラントの事、父親に話しておいてくれないか」
『父に、ですか?』
確かにアレックスの父親は騎士団だ。情報が伝わっているか確かめるのに一番手っ取り早いだろう。
あー、だから自分が彼の教官室に呼ばれたのかと納得するアレックスであった。
「それから、アスベル」
「…はい。」
もはや抜け殻状態のアスベル。呼ばれて返事は返したものの、頭の中まで届いてないかもしれない。
「お前は故郷に戻れ。お前が見聞きした情報をこちらに伝えろ。正確な状況を知りたい。」
未だに呆けるアスベルに渇を入れるマリク教官。
教え子を心配する反面、緊迫した状況の中、己の役目を忘れない所は流石教官である。
「それにお父上の死を弔い、母君に顔を見せてやらねば。今の母君にはお前が頼りのはずだ。早く行って安心させてやれ」
「…わかりました」
「私もラントへ戻ります」
「そうか。ならアスベルと一緒に行くといい。何かあれば手紙で知らせろ。おれもわかったことがあれば伝える」
アスベルとシェリアが揃って頭を下げるのを見、ワンテンポ遅れてアレックスもお辞儀をする。
さて、手紙には何と書こうか。
そんな事を考えていた時、アレックスはマリク教官に呼ばれたのだった。
「アレックス」
『あ、はい』
──…、
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