〜白薔薇の君〜
行き場のない悲しみが彼女の心を支配していた。
王族を守るべき存在が王族に何故刃を向けたのか。アレックスにはそれが分からなくて、また悔しくてたまらなかった。
王都の城の中ではここ数年、怪しい情勢が渦巻いているとアレックスは以前父から聞いたのを思い出す。
陛下の命を狙っている者がいると…。
それがまさか憧れた騎士団だなんて。
憧れて止まなかった騎士はアスベルはもちろんアレックスの夢でもある。だからこそ今回の出来事に、言いようのない怒りと悔しさが胸の奥から湧き上がってくると同時に、それに自分の父が関わっているかもしれない、と思うと胸が締め付けられた。
『どうして……。──!』
しかし悲しみに打ちひしがれる間もなく、一行の元に新たな追っ手の気配が。
『…!、誰か来るっ。アスベル!リチャード様!』
「「 ! 」」
アレックスの呼び声に振り向く2人。咄嗟に剣へと手を伸ばす。
すると、3人の追っ手がまたやってきたのである。
例の如く、容易く叩き伏せたアレックスとアスベル、そしてソフィ。
どうやら嘆いてる間も、ゆっくり休憩している時間も、もう無いようだ。急いでグレルサイドへ向かわなければならない。
「この者達は…、」
剣を鞘に収めながらアスベルが訊ねた。
「叔父のセルディク大公…。今や王国を騙る男の手の者だよ」
倒れ伏す追っ手に憎しみを込めた視線を送りながら、悔しそうにリチャードが言う。
隣でアレックスもなんとも言えない表情をしながら剣を戻しつつリチャードに視線を向けた。
「叔父は父から王位を奪おうと策謀を巡らせていた。そしてついに強硬手段に出たんだ。」
『まさかセルディク大公様が…』
主犯はリチャードの叔父、セルディク。
すべての始まりはこの人物でありリチャードの父の仇討ちの標的になる。
「2人とも、聞いてくれ。デールのもとへ辿り着いたら僕はすぐに兵を挙げる。父上の敵を討つためだ。」
「……。」
「アスベル、そしてアレックス。僕と共に戦ってくれないか。僕にはこれからも君らの力が必要なんだ、頼む」
リチャード自らがこんなに嘆願してきてくれてる。自分達を、自分を必要としてくれている。
こんな状況でなければ、どんなに嬉しかった事だろうか。
もちろん、と頷いているアスベルとは反対にアレックスは素直に頭を縦に振れなかった。
何故なら…、
『私、は…』
「すまないアレックス。君の事情も考えずにこんなことを頼んでしまって…」
もし、このままリチャードについて行けば、少なからず自分の父親と戦う羽目になってしまうのは目に見えているからだ。
助けになりたいのは山々なのだが、性懲りもなく戦う相手の事を考えてしまうアレックス。
いけないとわかっていながらも、ついに手が震え出す。
「確かに君は騎士団の親衛隊の一人を父にもつ身。だが僕はアレックスを信じているよ。君は君の望む道を進めばいい。君は君だから…」
『リチャード様…、』
アレックスが悩むもう一つの事項もあっさり言い当ててしまうリチャード。
この人には適わないな、とアレックスは苦笑いを零す。
『“君は君の望む道を進めばいい、君は君だから”。…七年前のあの時もあなたはそういって下さいましたね』
「?、そう、だったかな」
顔を上げ、真っ直ぐにリチャードを見つめるアレックス。その表情はなにか覚悟を決め、腹をくくったような、そんな顔だった。
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