〜白薔薇の君〜




アスベルが言った“リチャード”という名は私の脳に甘い刺激をもたらした。



アスベルの声にうずくまっていた者が顔を上げる。その表情は信じられないとでもいうかのようだ。


自分の事を敬語も使わず、よそよそしい態度も取らず、おまけに“リチャード”と呼び捨てに呼んでくれるのはたった一人しかいないからだ。



「俺はアスベル。アスベル・ラント」

「アス…ベル…?本当にアスベルなのかい?」


信じられなかった。でも、それ以上に心が高揚しているのがわかる。たしかに目の前にいる彼は七年前の友人の幼い面影を残していて、その声も少し大人びてはいるものの、昔を思い出してしまうものだった。



うずくまっていたリチャードに手を差し伸べるべくアスベルは近寄る。

アレックスはまるで時間が止まったかのように固まってしまっているのをソフィが不思議そうに見上げていた。


『………。』


(ど、どうしよう…。緊張して…まさかこんな所でリチャード様と再会出来るなんて…っ)


落ち着け、私!
そら深呼吸!


よし、そして笑顔だ!にこっ!て…




「?」(←ソフィ)





「それにしてもまさかこんな所でまた君と会えるなんて思わなかったよ」

「それはこっちのセリフだ。お前が死んだと聞かされて驚いたんだぞ」

「…僕が…死んだ…?…そうか…」


リチャードが考え込む仕草を見せると、アスベルは何かを思い出したように突然リチャードに向けて敬礼をした。今更なのだが…。




「お怪我はありませんか、殿下」


そう言ってリチャードに手を差し伸べるアスベル。昔は子供だった故に立場や身分を気にすることなく接していたのだが、今ではもう“大人”というわけでもないが、もう“子供”でもない。

今まで学んだことのなかに礼儀作法が含まれていたのは当然で、それが今のアスベルの態度の表れでもある。



「アスベル…君は…」


アスベルの態度の急変に言葉を無くしていると…、


『──アスベル!!』


エアー状態にいたアレックスが突然声を上げた。



「やはり生きておられましたか、リチャード殿下」

「……セルディクの手の者達か…」


そこに現れたのは三人の騎士。後ろにいたアレックスとアスベルはリチャードを背に庇うように前に立ちふさがる。



「そうはさせない!アレックス!」

『えぇ!』


リチャードから少し距離がある所で戦いが始まった。



「リチャード殿下覚悟!!」

『させるか!!魔神空牙衝!!』


アレックスの鋭い突きが相手の騎士を吹き飛ばす。

追っ手の者達はどうやら下っ端の騎士らしく、苦戦することもなくあっという間に倒してしまった三人。

こんなやつらが騎士を名乗るなんて…


アレックスがブスッと不機嫌面をしている側でリチャードはアスベルに言った。


「アスベル、君は本当に僕を助けに来てくれたんだね。君が来てくれなかったら僕は本当に死んでいたと思うよ。ありがとう、アスベル」

「は、間に合ってよかったです。」


そんなアスベルの対応にリチャードは苦笑いした。


「そんな他人行儀な話し方をしないでくれ。君と僕の仲じゃないか。」

「しかし立場がありますので…」

「僕がこうやって頼んでもかい?」


これには今度はアスベルが苦笑いを見せた。


「…わかった。それなら昔の通りにする。それでいいか?」

「ありがとう。やはり君にはそうやって話しかけてもらうのが一番しっくりくるよ」


そう言ってリチャードは嬉しそうに笑ったのだった。






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