〜白薔薇の君〜



アレックス達はソフィが“開けた”扉から聖堂へと入った。明かりの無い屋内は昼間にもかかわらず暗くて不気味だった。

静かな空間に三人分の足音が響く。


奥に進んでいると通路の右側の壁の下に小さな穴をアレックスは見つけた。アスベル曰わく、小さい頃に忍び込むのに使った穴だそうだ。なんだか聞いてるうちにアスベルの幼い頃のイメージが今と一致しなくなってきている。…はて、アスベルの幼い頃とは一体どんなのだったのだろうか。





『えー…、ここを行くの…?』

「?、あぁそうだが…どうかしたか?」


思わず歩みを止めたアレックスの視線の先は先の見えない真っ暗な空間へと続く抜け道の入り口だ。

反射的に背筋に悪寒が走る。




『うぅー…、暗い所は苦手なのよ…』

「そうだったのか!?アレックスにも苦手なものがあったんだな」

『ちょっと。今の発言地味に傷つく。私だって女の子なのよ!?弱点の一つくらいあったっていいじゃない!』


ちょっと心外である。
手を腰に当て、怒った態度を見せればアスベルは慌てふためく。
最近思うのだがアスベルをからかうのって結構楽しい…。


するとそんなアレックスの手を小さな手が握りしめた。

目線を下に向けると、ソフィの小さな手が彼女の手を握っていたのだ。



「大丈夫。私がアレックスの事、守る」

『…ソフィ、』

「ソフィ、お前…」


記憶の無い少女はしっかりとした態度でアレックスにそう言った。その言葉はアスベルも「記憶が戻ったのか?」と疑念を抱いてしまうほどであった。



『ありがとうソフィ。頼りにしてるね』

「うん」


微笑み、握り返した手。
少女は嬉しそうに小さくはにかんだ。





       *




『ソフィって記憶がまったくないの?』

、と唐突にアレックスが聞いてきた。その問いに振り返ることなく警戒しながらアスベルは進み続ける。



「うん」

『名前も?』

「うん」

『どこにいたとかも?』

「うん」

『ふーん』


二人のあまりにも淡白な会話にアスベルも思わず、ぷっと吹いてしまう。


『ソフィも私と同じなんだね』

「アレックスと同じ?」

「…え、」



その言葉にはアスベルも反応した。“同じ”というのは先の会話からして、“そういう事”なのだろうか。



「アレックス、今のはどういう…」

『どういう、ってそのままだよ。私も記憶が無いんだ。と言っても8歳以前の記憶なんだけど…』



明るく振る舞おうとするアレックスであったが、その瞳は影が差していた──…。



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