〜白薔薇の君〜
「ソフィ…なの、?」
アレックスが兵器の完全停止を確認していた時、ゆっくりと少女に近寄るシェリアとアスベル。
その足取りは恐る恐る、といった感じで「信じられない」という想いがアレックスに強く伝わってきた。
「ソフィのはずがない。」
そう呟いたアスベルの声はどこか固くて。
そして、まるで自分に言い聞かせるかのような言葉に聞こえた。
そんなアスベルとシェリアをただぼーっと交互に見つめる少女。
『知っている子……じゃないの?』
アスベル達の側に来たアレックスが問うが、彼は静かに首を横に振った。
「違う…。そんな事あるわけがない…、…ソフィはあの時、…七年前に死んだんだ」
『え…』
「ソフィ…?」
思いもよらぬ過去にアレックスは言葉を失った。それと同じく、少女が「ソフィ」という名に首を横に傾ける。
…まるで初めて聞く名のように。
そんな少女の態度にアスベルの脳裏に“ある事”が思い浮かぶ。
「…まさか…、記憶をなくしているのか」
と、可能性を言葉にするが、それすらも少女の反応はいまいちだった。
するとアスベルは「見てほしいものがある」といって少女を崖っぷちにそびえ立つ樹の根元へと促した。少女もそれに大人しく従う。
太く、がっしりとした幹が支え合って立つ立派な樹の下にそれはあった。
何か文字が刻まれているようだが…、
『名前…、?』
少し離れた所から見るアレックス。だが、子ども独特の汚い字(一つだけ達筆だった)が相成って読めなかった。アスベル曰わく、「幼い頃に書いたものだ」そうだが…。
「幼い頃、ここでソフィとリチャードと3人で“友情の誓い”をやったんだ」
『リチャードって…、…まさかあの!!?』
「あぁ、リチャード殿下だ。七年前にラントへ来て…、」
これがその時のもの、と懐かしそうに樹の幹を撫でるアスベル。
しかし、そのソフィにそっくりな少女は何も思い出さないらしく、ただ首を振るだけだった。
アスベルは残念そうに肩を沈める。
そんなアスベルを横目に少女は「でも…」と続ける。
「この樹を見てると不思議な気持ちになる。とても大切なものをみているような、そんな気持ちになる」
「どういう…こと?」
戸惑いを隠せない。
“死んだ”と思っていたのに、生きていて。
さらに記憶をまた失っている。
頭の整理が目の前の現実に追いつかない。
「常識的に考えればソフィ本人ということはありえないと思う。だが赤の他人というにはあまりにも…、…似すぎている。」
瓜二つ。
目の色も、髪の色も、今では追い越してしまったその背丈も…。
(…そっくり…。)
だ、という。
アスベルとシェリアの辛そうな表情にソフィという少女がどれほど大切な存在だったか。アレックスには痛いほど伝わった。
だがアスベル達は忘れていた。
今がどれほど危機的状況なのかを。
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