第18話
夢小説設定
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「髪が…、」
『はい?』
「髪がすいぶんと伸びたな。」
頬をつねっていた手を今度は彼女の栗毛色の髪の束をすくった。
くすごったくもあり、どきどきとエレンの心臓がざわつく。
肩よりもすこし長くなった髪は痛みを知らない絹のような手触り。ずっと自身の髪に触れているダリューンにすこし気恥ずかしさを覚えた。
『あれから半年経ちましたから…。短いのも悪くなかったのでまた切ってもいいかもしれませんね。』
エラムにまた頼もうかしら、と言い出すと気に入らないのかなぜかダリューンは顔をむっと眉間にしわを寄せた。
「それはダメだ。」
『どうしてです?もしかしてまだ気にされてます?』
「そうではないが…。いや、そうかもしれん…。」
どっちですか、とくすっと笑う。
以前エクバターナへ侵入した時、再会した彼女の髪はすでに少年のように短く切り捨てられていた。
切った本人は銀仮面卿なのだが。
その場面に間に合うことが出来ず、防げなかったことがずっと彼のなかで悔やまれているらしい。
『ダリューン様がそう仰るのなら…、もう少し伸ばそうかな。』
「そうしてくれ。」
弄ばれる髪と反対の方を自分ですくって長さを確認する。
じゃあ伸ばそうと行ってくれたことにダリューンは無邪気な子供のように笑うのだった。
エレンはその笑顔がたまらなく好きで仕方ない。
戦場とはまるで違うその雰囲気がもう一つの彼の本来の姿なのだと思うとそれを知れたことが嬉しいのだ。
そこでエレンはふと、気づく。
自分の髪をすくうダリューンの右手に僅かに感じた力の名残。
その手を両手で取り、じっと見つめる。
『かすかに力の一片が感じられます。』
「あの時の祝福とやらのか。」
『…。はい、ですが消えそうな気配もありません。もしかすると加護を授けた本人が生きている限りこの祈りの力は継続されるのかもしれません。』
つまりエレンが生きている限り、一度祝福の力に触れたものはその加護が継続される、かもしれない。
だとすると、エクバターナで別れた父にも私の祈りの加護が継続されている可能性がある。
そうだといいな、と心のなかで切実に祈る。
どうか父が元気で過ごしていますように、と…。
両手でダリューンの右手を握っていると握り返すように彼もエレンの手を握り返したのでそれに驚き、どきっとして他所に行っていた思考が無理やり戻される。
「その力とやらが継続されているのなら、お主に負担がかかってはいないか?」
『どうでしょう?今のところは力を使っているようなはっきりとした感覚はありませんが…。でもそれでダリューン様をお守り出来るのならずっと続いてくれると嬉しいです。』
「…――っ、」
ふわり、という表現がまさしく似合う。
腹の底が疼いた。
本当に嬉しいのだと伝わる彼女の笑み。
馬に乗り、剣を手に戦場を駆ける勇ましい表情とは裏腹のその女神のような微笑みはまさに聖なる乙女“ホーリーメイデン”の名に相応しい。
ずっと彼女の祈りの加護が自分に注がれるという特別感はダリューンの独占欲を満たしてくれた。いままで彼女をそんなふうに見たことがなかったのだが、最近特にもやもやとした感情が現れては消え、また現れる。それが一体どういう意味を持つのか。
心の奥底で考えてはいけない、と理性が歯止めをかける。
だが今だけは、と彼の中でも欲が顔を出す。
「エレンの祈りの加護が俺に中で継続されるのなら、俺も何か礼をせねばならんな。何か俺に出来ることはないか?」
『え…、そんな気になさらなくても…。私が勝手にしたことですし…。』
じっと彼女の目を見つめ何か言われるのを期待しているダリューンの目に、意外と頑固なところがあるのだと認識する。
そういえばよくヴァフリーズ様も甥のダリューンはいつも自分が正しいと思うと言う事が可愛げ無くなると、正直にものをいうところがあると嘆いている場面を見た気がする。
つまり頑固者、…?
『では、えーっと…、すこし肩をお借りしてもよろしいですか?』
「肩、?」
その意味をよくわからず、了承するように頷くとエレンは体を少しダリューンに寄せて彼の左肩にもたれるように顔をくっつけた。
その状況に一瞬で体が固まるダリューン。
一体今なにが起きている…?
密着する体とふわりと彼女から漂ういつか嗅いだ花のような香り。
それがますます体を硬直させる。
『(温かい…。生きている…。)』
当の本人はダリューンが生きていることを全身で感じていた。
不安な心が落ち着いていく。
自分にとってダリューンはかけがえのない人であり、父の次に信頼を寄せる人だ。―そしてなによりエレンが想いを寄せる人。そんな彼を失うのでは、と思った瞬間怖くて仕方なかった。
落ち着きを取り戻した反面、安心したことで今度は涙が込み上げてくる。それを必死に隠そうと、バレないように涙を我慢しようとすると余計に体が震えてくる。
それに気づいたダリューン。エレンが涙を流し震える肩にそっと手を添え、しばらくの間ずっと背中を撫で続けてくれてのだった――。
「(参ったな…。)」
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